「あは、ははは!似合ってるよ名!」
『嬉しくなーい!』
バイト初日。
幸村が部活帰りにわたしの家に立ち寄って、晩御飯を食べた後、お泊まりセットを持って彼の家へ向かった。
食事中、お父さんが幸村に「責任は取れるんだろうな」とギロリと睨んでいたけれど、彼の纏う独特な穏やかな雰囲気に拡散され本人に届いていない。
お母さんも「精市くんならいいじゃない」みたいなことを言ってたけど、許される理由がわからない。
相変わらず大きな幸村の家。
本当に誰もいないらしく、真っ暗なカーテンが締め切られた窓と、玄関先だけ明かりが灯っているだけだった。
リビングに招かれ、荷物を部屋の隅に置かせてもらい、ソファーに腰掛ける。
待っててと、部屋に走って行った幸村が何かを持ってリビングに駆け込んできた。
「じゃーん!」
うわ。3年間離れているうちに幸村の趣向も随分変わったらしい。
幸村の手の中にあったのは、紺色に白いフリルエプロンのメイド服だった。
いや、バイトの制服……お手伝いさん……うーん。
パーティグッズ売り場のペラペラなものじゃなくて、わりとしっかり作ってある。どっから仕入れてきたの。
「家にいる間はこれを着ること」
『え、嫌』
「リア王観たくないの?お金欲しくないの?」
それを着ないとお給料は出ないってことですか。
幸村が持っていると何だか不自然なメイド服。
わたしが持ってても、着てても不自然なことには変わらないけど、お金のため!
割り切ってその服を受け取る。
「これもよろしく」
猫耳カチューシャ。白いニーハイソックス。鈴のついたチョーカー。尻尾はメイド服のフリフリのペチコートに縫い付けられている。
『ご主人様とお呼びすればよろしいでしょうか』
「ふふ、勿論」
遠い目で話しかけているのに、幸村は心底嬉しそうに笑っている。
とりあえず脱衣所を借りてメイド服に着替えてみるけど、異様なまでにぴったりだ。
既製品。既製品に決まってる。タグ……無いな。どういうことだ。
『スカート短い……』
太ももの真ん中あたりまでしか丈がない。
料理やお掃除をするための格好ではないよ。
これを着て家事をしてる後ろ姿を眺める為だけのものだよ。
後から渡されたアクセサリー類も身につけ、リビングで待つ幸村の前に立つ。
涙を流すくらい笑われて、羞恥でわたしはいっぱいいっぱいだ。
こんな服似合ってるなんて言われたって嬉しくない。
こうなったらヤケクソだ!メイドさんになりきってやる。