「と言っても、今日は特にするとないけどね」
『なんじゃそりゃ』


家事をするためだけに呼ばれたものなので、何もすることがない今は幸村の隣に座ってテレビを観ている。
完全な主従なんて結ばれていないので、ただわたしが趣味でメイド服を着ているみたいで不愉快。


冷蔵庫の中は適当にしていいと言われて、明日の朝ごはんとお弁当くらいは作れそうだった。
数日旅行に行くのに野菜やお肉を冷蔵庫に入れっぱなしって、わたしになんとかさせる気満々じゃないか。

幸村は8時に家を出るって言ってたから、起こすのは7時くらいだとして、ご飯を作りたいから6時半には起きなくては。
まだ長期休暇だから朝練がないだけマシかもしれない。
というか、おばさまは朝練がある日は何時に起きてるんだ。


『お風呂沸かしてくる』
「シャワーでいいよ」
『湯船に浸かる方が疲れ取れるらしいよ』
「俺が浸かった後に入るの?それとも俺だけ?勿体無いよ」
『お、おおう』


幸村の正論に納得。子供の頃とは全く意識が違うのだ。
まぁ、わたしはお父さんの後でも湯船に浸かれるけど。


「名、先に行っておいで。俺はこれを見終わったら入る」
『はーい』


カバンから着替えを取り出してお先にお風呂へ。

洗濯……まだ21時前だし、幸村が入った後に洗濯機回しても大丈夫かな。
日中のが早く乾くけど、陽射しのせいで色褪せしちゃうんだよな。
それにあのちょっとベランダ出るだけなのに、日焼け止めを塗るのがめんどくさい。


『せーちゃん、洗濯したいからすぐにお風呂入ってね!』
「んー……」


やる気のない返事が返ってきた。
テニスバッグの中のタオルとユニフォームが洗濯カゴに入るか乞うご期待。


「ん?」


今、名、俺のこと《せーちゃん》って呼ばなかった?

ぴたぴたと浴室からシャワーの水が床を跳ねる音が聞こえてくる。

せーちゃん、何年ぶりに言われただろう。
小学校を卒業してから、朝練もあり、道端で会うことも滅多になくなった。
その頃からかな、名が言いづらそうに幸村って言うようになったのは。

俺が入院したとき、お見舞いに来ると真田や蓮二と居合わせることが多くて、その時にはもう呼んでくれなくなった。
子供っぽいのかな。俺は名にそうよばれるのが好きなんだけど。

と言うより、俺は名が好きだ。
母さんから名が立海の高等部に入学するって話を聞いて、また一緒に過ごせるとにやけてしまうくらいだった。
一途にも程があるだろう。

離れていた3年間でどんどん名への想いが膨らんで、どうしてかあらぬ方向へ趣味が傾いた。
猫耳メイド服なんてね。ホント、妹が読んでた漫画を見て名に着せたいって思っちゃうなんてね。
あの服自体は妹がコスプレで作ったものだ。サイズ間違えちゃって、バカだよね。


『お先に頂きました!さ、入った入った』
「母さんみたい」
『何を!』