「幸村先輩のお弁当豪華ッスね〜!」


ひょこりとお弁当を覗き込んできた赤也。
今日ばかりはおかずはあげないよ。名が作ってくれたからね。

赤也が入学して、中学三年の頃のような面々が揃った。
赤也は一年ながらもレギュラーの地位を確立し、柳生とジャッカルは準レギュラー。
蓮二は前線から引き、マネージャーとして相変わらず参謀として働いている。

風の噂では、跡部と不二もレギュラーになっているらしいね。当たり前か。
手塚は進学はしたけれど、部活に入らずプロとして練習に励んでるそう。


「幸村くんの家族って里帰りしてるんじゃなかったけ?」


丸井もお弁当を覗き込み、うまそーとぼやく。ダメ。


「メイドさん雇ったからね」


名だけど。メイド服を着てるから、立派なメイドさんだよね。

名のお弁当、美味しい。
昔からお母さんのお手伝いをして台所に立ってたし、その時は見た目が悪かったけど見た目から美味しそうになってる。

真田と蓮二は何かに気付いたのか、僅かに微笑んだ。


「メイドさんって色んな世話してくれるんスか?!」


爛々と目を輝かせる赤也に蓮二がフリップを頭上に落とした。
漫画の読みすぎだよ。名には何も……何もしないままでいいのかな。


ごちそうさまでした。お弁当箱を閉じて、手を合わせる。
帰ったら名にもちゃんと言おう。
冷めても美味しいお弁当でした、って。


早く家に帰りたいな。
新婚ってこんな気分なんだろうか。
長いようで短い部活の時間が今日はやたらと長く感じる。

一秒が一分のように感じて、蓮二に焦るなと注意されてしまった。
彼曰く、名はお菓子でも作りながらお前の帰りを待ってるだろう、ってさ。

なんだそりゃ。かわいいな、新婚さんじゃん。

そう、名は勿論お菓子も美味しいんだよね。
今年のバレンタインで貰った、塩とバターのきいたクッキー。あれ、美味しかったな。
本当ならチョコレートか欲しかったけど。
山ほど押し付けられたチョコレートの中に、塩気のあるものを贈ってくれたから、何倍も美味しく思えたし、あの気遣いにこの子しか俺にはありえないって確信が持てたな。


「幸村の奴やたらと早く帰ってったの」
「可愛い女中が待ってたら当然だな」
「真田君は誰がお待ちかご存知で?」
「当然だ。あいつと何年の付き合いになるか」
「どんな人か気になるっすね。見てみたい」
「幸村に殺される覚悟で見てみることだな」
「ジャッカル先輩だって気になってるくせに」