「名、寝るよー」


せーちゃんが自分の隣を叩いてわたしを呼んだ。
そこに倒れこむと大きな手が頭を撫でた。


「ぬいぐるみなくて平気って言ってたのに、俺にしがみつかないと眠らなかったよ」
『え、嘘』


優しく頭を撫でられて、うとうとし始めた頃に爆弾発言。一気に目が覚めた。
今朝はわたしから抱き付いてたのか。


『寝づらくなかった?』
「あー、まぁ、平気だったよ」


歯切れの悪い返事になんだか申し訳なくなってしまった。
わたしもまだまだ子供だな。


「だから今日も抱きしめてやろう」


頭を撫でていた手は背中に回り、長い腕でわたしを胸の中に収めた。
とくとくと聞こえるせーちゃんの心音が心地よい。


『せーちゃん、ちゃんと生きてるんだなぁ』
「どうしたのいきなり」


中学二年の頃に倒れ、次の年の夏に成功するかわからない手術を受けて、まだせーちゃんの心臓はしっかりと動いている。
疎遠になっていたけれど、倒れた話を聞いたときにはわたしまで倒れそうになった。
できる限りお見舞いにも行ったし、生きることを諦めかけたせーちゃんの手を何度も握った。

変だねと、せーちゃんは笑った。
大切な幼なじみを失うところだったんだ。変と言われようと、泣きたくなるぐらい嬉しいことなんだ。


『手術の傷跡って消えた?』
「どうかな。背中だからね」


せーちゃんにはこの傷跡は見えない。見えなくていい。

せーちゃんの背中に手を回して、傷跡のあたりを服の上からそっと撫でる。


「くすぐったいよ」
『ごめーん』


身をよじったせーちゃんはわたしをさらに強く抱きしめた。


「生きてるっていいね。改めて君を抱きしめて思うよ」
『せーちゃん?』
「何でもない。名の作ったプリンが食べられて最高ってこと」
『なにそれ〜』


日中することもなく、他人の家でゴロゴロくつろいでいるのも申し訳なくて、二人で消費するには卵と牛乳がたくさんありすぎていたので、傷む前にプリンにしてしまった。
カラメルもちょっと焦げた気がするけど、逆にそれがほろ苦を演出していい出来になった。
ゼラチンで固めるものじゃなくて、きちんと蒸したもの。
びっくりするぐらい滑らかに仕上がって、せーちゃんはもっと食べたいと呟いていた。


「明日のお弁当も楽しみにしてるよ」
『頑張ります。おやすみ』
「おやすみ」


薄暗くなった部屋に、穏やかなせーちゃんの寝息と心臓の声にまぶたが重くなっていく。
強く、だけど優しく鍛えられた腕に包まれ、いい夢が見られそうと目を閉じた。

またアラーム設定し忘れたな。