「名、名起きて!」
『あうあう』


せーちゃんに揺すり起こされ、時間を確認する。
7時前。お弁当作れないじゃない。失敗した。


ベッドから飛び降りて、朝ごはんだけでもとキッチンへ駆ける。
着替え?そんなの後に決まってる。せーちゃんが遅刻して部活に支障が出るほうが問題だ。


日課の花壇の世話と、洗濯物を抱えたせーちゃんがリビングに戻ってきた。
焦らなくていいよと、水筒に冷えた麦茶を入れながら、自分も時間に余裕があるわけじゃないだろうに手伝ってくれた。


「名、お弁当は学校に持ってきてくれないかい?」
『そのつもり!コンビニのおにぎりとかパンじゃ足りないでしょ?』


せーちゃんの分のご飯だけ食卓に並べる。オムレツと納豆と昨日の残りのみそ汁。
これだけでも大丈夫と、ニコニコしながら頬張る。申し訳ない。


「夏休みだから私服で来ても怒られないと思うけど、気をつけてね」
『真田がいるし、一応家に帰って制服を着てから行くよ』
「それがいいや」


玄関でせーちゃんを見送る。寝坊とお弁当ができなかったことをもう一度謝る。
気にしないでと頭を撫でられる。


「いってきます」


屈んだせーちゃんが顔を近付けた。
頬に何かが触れて、彼はニコリと笑った。


「いってらっしゃいのキスをするのとしないので事故率が変わるらしいよ」
『そうなの?』


キスされた頬を片手で覆う。熱い。


せーちゃんは屈んだま動かないから、わたしからもキスをしろってことなのか。


「ん」
『いってらっしゃい』
「お弁当待ってるね」


ぎこちなく頬に落とした唇。
満足したみたいで、せーちゃんは昨日よりも爽やかな笑顔で学校へ向かった。

わたしのキスぐらいで、せーちゃんが無事に帰ってこれるなら、儲け物だけど。
長いため息を吐きながらその場にへたり込む。


『ばかぁ』


幼馴染に求めすぎだよ、せーちゃん。


それにしても、せーちゃんが先に起きてくれてよかった。
何もせずに送り出してたらお金をもらっている意味がないし、そもそも今日だって放棄したようなものじゃないか。

よし。時間にいくらでも余裕があるんだから、美味しいものを作って持って行ってあげなければ。

昨日買い揃えた食材をチェック。頑張るぞ!
その前にわたしも朝ごはん。