「こんにちは」
『あっ、いらっしゃいませー』


お客様が来られるから、この間の和菓子を買って来なさいとお遣いに姓さんの店へやってきた。
休日でもお店番をしていた。

店内はいつも通り男性客が少し多めで主婦達が会話に花を咲かせていた。
隠れ家カフェが流行っているらしいし、可愛い看板娘もいて、和菓子の味は広まっていても、甘味処の口コミは拡げていないみたいですね。


『お茶をどうぞ』
「ありがとうございます」


グラスに入った冷たい緑茶をいただく。和菓子を買いに来ただけなのに、サービスしていただけるのですね。

母のお気に入りは塩豆大福。それを6つ包んでもらう。
あと、個人的に食べたいので三杯酢のところてんを一つ。


「姓さん、実は妹がはちみつレモン水饅頭をいたく気に入ってしまって、また食べたいと駄々をこねるのです」
『嬉しいなぁ。ブンちゃんの弟たちも気に入っちゃってさ、商品化の許可を早くもらいたいねぇ』


嘘です。単純に私が食べたいだけです。
姓さんは嬉しそうに鼻歌を歌いながら袋詰めしていく。

あ、と何か思い出したのか、私の顔を見た。
くりっとした黒目にはっきり私の影が映って見えて心臓が跳ねる。


『また試食してもらっていい?』
「私で良ければ」


彼女は目を歪めて笑い、待っててと店の奥へ消えていった。


「お兄ちゃん、名ちゃんが気になるの?」


常連客と思わしきおじさんが新聞から顔を覗かせ声をかけてきた。
私が曖昧に返事をすれば、先日の丸井君のようにニヤリと目を歪ませた。


「彼氏はいないはずだよ。でもね、好きな子はいるみたいだね。おじさんいつも見てるから」
「そうそう、ちょっとぽやーっとしてるわよね」
「恋する乙女って感じよ」


別のテーブルの奥様も会話に割って入ってきた。
なんだかストーカーのようにも感じたが、小さい頃から見守っているということだろう。彼女にとったら常連客は親戚のような存在なのだろう。

好意を寄せている方がいるのですか。私の入る隙はなさそうですね。玉砕覚悟というものがありますが。


「そうそう、名ちゃん、来週の日曜日が誕生日でね」
「はあ」
『え?何々、どうかした?』


奥から戻ってきた姓さんが、私と常連客と話している様子を見て首を傾げていた。
常連客は何でもないよと笑い、新聞に目を落としたり、向き直り談笑に戻った。

何を伝えたかったのかわかります。恐らくプレゼントを渡しなさいということなのだろう。
何を贈るべきかは妹と考えましょうか。


手の中にある試作の和菓子。今度はどのようなものなのでしょうか。
見た目だけはどら焼きのようですが。


『じゃーん!林檎どら焼きです!あんこの代わりにサツマイモペーストを使って、角切り林檎をたくさん詰めてみました』
「秋らしいですね!いただきます」


立ったままで少しお行儀が悪いですが、テーブルは埋まっているので。
美味しい。女性や子供が大好きそうな味です。あんこを使っていないので、苦手な方でも食べられますね。


「私は好きですよ」
『えっ』
「え?」
『よかった、嬉しい』


緊張していたのか、ホッと胸をなで下ろしていた。