「おはようございます」
『柳生くん!おはようございます。お遣いですか?』


店先を箒で掃き、開店準備をしている姓さんに声をかけた。


まだ朝露の残る時間に幸村君のご自宅を覗かせてもらえば、せっせと花壇の手入れをしている彼がいた。
朝からご苦労様です。麦わら帽子を被って雑草を毟る彼からは部活での雰囲気は全くありませんね。
門柱から声をかければ私に気付き、中へ招き入れてくれた。


「これがね、ペンステモン」


園芸用のハサミを片手に、幸村君はいくらかペンステモンを切ってくれた。それだけでは寂しいからと、他の草花も添えて。
そのままではかわいそうと簡単なラッピングまでしてもらいました。


「上手くいくといいね」


ワックスペーパーに包まれ、紫のリボンにまとめられた花々。
幸村君は私が何をしようとしているか知っています。振られない自信はありません。


「姓さん、お誕生日おめでとうございます」
『えっ!?』


目をまん丸にした姓さんは、手からすり抜けそうになった箒を慌てて腕の中にしまう。

誕生日知っていたら気持ち悪いですよね。
常連さんから聞いたとはいえ、大して親しくもない仲に律儀に祝う人はあまりいないでしょう。
丸井君だって私が姓さんを気にしていると知っていても、都合よく昔の同級生の誕生日を覚えていないでしょう。


小さな花束と図鑑の入った紙袋を彼女の前に差し出す。
私の顔とプレゼントを何度か見た後、遠慮がちに両手を差し出した。

私の手から離れた紙袋は少し重かったのか、引力に体のバランスを崩しかけていた彼女を支える手が反射的に出た。
私の手に頼ることなく立ち直した姓さんは紙袋の中を覗き込む。


『見た目より重い』
「図鑑ですので」
『図鑑!?高かったんじゃない?』
「いつぞやのところてんのお礼と思って受け取ってください」
『……ありがとう』


姓さんは紙袋と花束を胸に抱いた。
拒否されたらどうしようかと思いましたが、杞憂でしたね。

丸井君と初めてここに訪れた時に、ところてんのお代を払っていないのは事実です。
先日お遣いに来た時も、渡しそびれました。それに、そもそもの価格も知りません。


貰い過ぎてしまったお礼も込めて姓さんの手に渡ったプレゼント。よろこんでもらえるだろうか。


『こんな花束まで』
「花束は友人が見繕ってくれました。その花、ご存知ですか?」


他の花に埋もれないように、主人公は私であると胸を張って佇んでいるペンステモン。
姓さんは首を横に振る。


「ペンステモン。花言葉は《貴女に見惚れています》。驚かせることも承知です。姓さんが好きです」


言ってしまった。

姓さんはまた目を丸くして、私の目を見たあと、口をキュッと真一文字に結び目を逸らした。


「それでは、部活があるので」


失礼します。と、頭を下げた。
踵を返し歩み出そうとしたときに、姓さんが私を呼び、引き止めた。


『柳生さんのお誕生日はいつですか?』
「10月19日です」
『……その時にお返事させてください』


頬を薄紅に染めて、胸に私からの贈り物を抱きながら姓さんはそう言った。

少しは期待をしてもいいかもしれません。