『わたし、せーちゃんと同じ高校に行く』
「無理じゃないかな」


バサリと切り捨てられた。ひどい。


「ひどいのはお前の頭だろ」
『おっしゃる通りです』


ぐうの音も出ない。仕方ない。わたしはとんでもない阿呆だ。
授業はノートはとってはいるけれど、問題集は解かないし、寝ちゃうし、テスト前ですらろくに勉強しない。
中学なんだもん。勝手に卒業まではできるし。

まぁ、世の中中卒でも生きてはいけるけど、高卒がわりと当たり前であって、わたしも進学を視野に入れてはいるものの、いかんせん頭が悪い。
立海大附属の高等学校なんて毛頭無理だ。


「でも、偏差値30の高校行くよりかは頑張って立海に入るのはありかもね」
『そう思う?まだ三年始まってないし、頑張ればできるかな』


甘いとせーちゃんのげんこつが振り下ろされた。痛い。入院しても腕力は衰えないな。


「勉強か、スポーツ特待か。いい成績だったんでしょ、今年」
『うん。この間の新人戦は優勝できたよ』
「全国にも出たんだっけ。来年次第か。何にせよ勉強しないとね」
『うん……』


あまり開くことのない貰ったままの教科書を手に取る。書いてあることをきちんと頭に入れられれば、わたしも少しは賢くなるのだろうか。


「暇だし、俺が見てやるよ」
『えっ、入院してる間の授業わかんないじゃん』
「真田と蓮二にノート借りてるからいいの。それより名よりもずっと先を勉強してるし」


私学ナメんなと頭を小突かれる。
そういえば、1年も使ってるのに教科書の最後まで読んだ記憶はないな。どうしても終わらせたくて、年明けから駆け足で残りの項目を終わらせていた気がする。そりゃ、緩いとか言われちゃうよね。


せーちゃんに毎日来いと言い渡され、雨の日も寒い日も、学校行事の後だろうと、せーちゃんのベッドの上で勉強した。
春になって全国大会に向けて練習が長引いても、面会時間ギリギリまで勉強した。
おかげさまで定期考査では80点平均になったし、立海にギリギリ入れるかなってぐらいまでになった。


『せーちゃん退院おめでとう!』
「ありがとう。ようやく自由だよ。まだ、看護師さん付きだけどね」


わざとらしく大きく伸びをする。
寝巻き以外のせーちゃんの姿を見るのは久しぶりだな。
お互いの部屋の窓越し。中学に入ってからはあまりこうやって話すことはなくなった。


「勉強どうする?そっち行こうか?」
『部活復帰するんでしょ?あんまり負担かけるとげんちゃんに怒られちゃう』


以前に、せーちゃんに勉強を教えてもらっていた時にげんちゃんがお見舞いに来て、わたしが勉強をしている光景に驚いてラケットバッグを落としたことがある。
そのあと、無理をさせるなよと釘を刺された。
その時一緒にいたせーちゃんの後輩くんに同類と馬鹿にされたけど、見習えとげんこつを食らっていた。


「一人でできるの?」
『できますぅー。それにもう推薦が来てるの』
「よかったじゃないか」
『だからね』


せーちゃんは仕方ないなと微笑んだ。
推薦試験は全国が終わってすぐ。もう時間は少ない。それまでは一人で頑張る。


全国は三回戦敗退。せーちゃんとげんちゃんは決勝で涙を飲んだ。わたしたちの青春の1つが終わった。
でも、気を抜いてなんかいられない。


『せ、せーちゃん!』


部活から帰れば、玄関でソワソワしている名が立っていた。
俺の姿を捉えるなり、走って今にも飛びついて来そうだったので、肩を掴んで受け止める。


「何、どうしたのそんなに慌てて」
『合格した!』
「本当!おめでとう名!」


泣き笑う名を見て、俺も安心した。
名がどれだけ勉強してきたか見守ってきたから、努力が報われて本当によかった。
それに4月から名も立海に俺と一緒に通えると思うと嬉しくなった。

親より先に俺に報告に来たことにはデコピンだ。


「よく頑張ったね」


デコピンより先に名の頭を撫でた。何年振りだろう。昔はよく試合に負けて泣いている名の頭を真田と一緒に撫でて慰さめたものだ。
それに、合格したら褒めて欲しいとか小さい頃のままだね。


『ところで、せーちゃんも立海なんだよね?』
「頑張った名がいるからそうしようかな」


ちょっと意地悪なことを言ってみる。
名じゃなかったらこんなに気前よく勉強を教えたりするものか。
真意を知りもしない名は意地悪に頬を膨らませた。


「合格おめでとう。春が楽しみだね」『うん!』