『柳くん、切原くんが今欲しいもの何か知らない?』
「ニンテンドースイッチだ」
『なるほど』
それは買えないわ。
プレゼントを切原くんにねだられたために何をあげるべきか頭を悩ませていた。
彼の近くにいてデータマンの柳くんに一応聞いてみたものの、高価なものだった。切原くんらしいけど。
『中二にもなって誕生日主張してくる子、初めて見たよ』
「赤也はお調子者だからな。アメ一個から靴まで貰っていたな」
色んなもの貰ってるんだな。当日に有り合わせの物まで。
被ったところで何も思わないだろうけど、どうせならそれなりのものあげたいし。
そもそも兄弟がいないし、男友達に何かあげることもなかった。あってもお菓子とか。
それ以外なら、副会長には安いけれどブレスレットをあげたし、柳くんには本屋で見かけた漢詩のカルタのようなものを贈った。
あれ?そうだ、コンビニのお菓子とかあげてた。なのに、切原くんにあげるものをなんでこんなに悩んでるんだ?
ほかの男子と同じようにその辺にあった適当なものでいいではないか。
「気付いたか?」
プレゼントすることより、プレゼントに首を捻らせていれば、柳くんは少し笑った気がした。
ああ、わたしは切原くんに特別なものを贈りたいんだ。
「これからも赤也をよろしく頼む」
『お父さん?』
「お父さんは弦一郎のほうだな。まぁ、似たようなものだ」
ぽんと柳くんの大きな手が肩に乗った。
何をあげるべきかヒントは全くもらえなかった。
次の休みの日、大型のショッピングで切原くんへのプレゼントのヒントを漁っていた。
勉強嫌いな切原くんには小説とかは無用だろうし、石鹸は女の子すぎるし、やっぱり無難なタオルとかだろうか。いやでも、ハンカチの贈り物とかは手切れの意味があるとか柳くんが言っていたような。
難し過ぎる問題に頭を捻らせていれば、軽く肩を叩かれた。
「名先輩!ちわッス!」
『切原くん。こんにちは』
歯を見せて笑う私服姿の切原くん。向こうで会釈した女性はお姉さんだろうか。切原くんに手を振って、休日のショッピングモールの人混みに消えていった。
「何してたんスか?もしかして、俺へのプレゼントとか!」
『そうだよ』
「へ?」
にまにまと笑っていた顔がわたしの一言で目が点になる。多分、今の一言は下手なサプライズよりも驚きを提供できた。
わたしから目を逸らした切原くんの耳がほんの少しだけ赤い。照れちゃって可愛い。
「じゃ、俺のお願いいくつか聞いてもらえないですか?」
髪を触ったり、後手に組んだり、落ち着かない手のまま切原くんは横目でわたしの顔を伺った。
どうぞ。と、言えば切原くんは頬を緩ませた。
「まず俺のこと、名前で呼んでほしいッス」
『赤也、くん?』
「ッス」
より一層頬を緩ませた、下唇を噛んでニヤけるのを必死で押さえ込んでいるみたいだけど、押し上げられた下まぶたが隠せていない。
「今から映画観ましょう?」
『いいよ。プレゼントってことで奢らせてもらえない?』
「へへっ、ありがとうございます」
赤也くんに手首を掴まれ心臓が跳ね上がり、人を掻き分けわたしより歩幅の大きな彼に引っ張られ、ショッピングモールの最上階にあるシアターまでやってきた。
電子券売機で中学生二枚のチケットを手にする。赤也くんが見たいと言った人気アクション映画の最新作。
わたしもこのシリーズは地上波で観ているし、大迫力で観たいと思っていた。
夏休み中に公開されていたせいか、座席は結構空いていた。
『ポップコーンとかジュースは?』
「ほしいッス。これは割り勘で」
セットで買ったポップコーンとジュースを手に席に着く。
開演までに流れている新作映画のコマーシャルに、これは面白そうとか、原作は読んだとか会話しているうちにシアターが暗くなった。
「もっと俺のワガママ聞いてほしいっす」
『いいよ。特別ね』
くいっと袖を引っ張られ腕を動かせば、その腕を辿って、赤也くんの皮膚の固い指先がわたしの手を包んだ。
わたしは赤也くんに振り向けば、スクリーンの明かりに照らされた横顔しか見えなかった。