「会長ー!」
『ふぎゃ!』
「海原祭一緒に回りましょう!」
『あぁ!ちょっと!』


見回りの途中、赤也くんに腕を掴まれ人に溢れる廊下を駆ける。
赤也くんにはわたしの制止する声が届いておらず、肩をぶつけながら謝りながら、グラウンドの露店までやってきた。

息ひとつ乱さずたどり着いた赤也くんに対して、わたしはうっすら汗を浮かべる。


『もう、あとででもいいでしょ』
「今がいいんです」


右手にしっかりと握られた赤也くんの手。仕方ない、今は赤也くんに付き合うかと、バインダーを小脇に挟んだ。
それを見て赤也くんは満足したのか、わたしの手を取って歩き始めた。

大学部とも上手く兼ね合いが取れて、賑やかなグラウンド。それなりの人の入りで、ステージも盛り上がっている。
見回りと思われているのか、わたしの左腕に巻かれた腕章を見るなり、ぎこちなく接客をしていた。


「名さん、あーん」


早速たこ焼きを買った赤也くんが、お箸でひとつ摘み、わたしに差し出す。
こんな人のたくさんいる中で!わたしはためらい、先に食べるように勧める。

中々下ろしてくれないお箸に遠慮がちに口を開く。放り込まれたたこ焼きの熱さに思わず顔をしかめる。
満足したのか、赤也くんもたこ焼きを食べ始めると熱さに驚いていた。


食べ終わった赤也くんの口についたソースをハンカチで拭い取る。
小さい子供の世話をしている錯覚に陥った。わたしより少しだけ大きいのに。
柳くんや真田くんが構いたがる気持ちも少しわかる。


「会長何イチャついてるの。仕事してよ」
『ごめん、副会長。すぐ戻るよ』


不機嫌にバインダーを抱えて見回りをしていた副会長に見つかってしまった。
あなたも幸村くんに気をつけないと同じ目に遭うよ。多分会っても突き放すし、幸村くんがしつこく彼女の後をつけるだけなのだろうけど。

幸村くんの一方的な想いかと思ったら、意外と副会長は受け止めて満更でもないみたいだし、それをわかっていて許容している幸村くんの心の広さには感心する。
あ、ほら幸村くんに捕まった。


遠くの二人を見ていると、赤也くんにカーディガンの袖を引っ張られた。
大きな翠の瞳が揺れて、眉尻を下げて小さく呟く。


「行っちゃうんスか?」
『行かなきゃ。わたしのやるべきことだし』


その手を払うことができず、わたしはどうすべきか。


『ついてくる?楽しくはないかもしれないけど』
「へへっ、先輩といれるならそれでいいんス」


また右手に繋がれた赤也くんの左手。これじゃ、バインダーに文字が書き込めないよ。
そういう意味を持って、右手を持ち上げれば、案外簡単に解いてくれた。


「じゃあ、こっち」


赤也くんの左手がわたしの背中を回って左手に置かれた。
腕だけが触れ合っていたのに、赤也くんの脇腹に身を寄せる形になって、身体は萎縮したのに、心臓は激しく脈を打った。


「彼女と学園祭を回るの、ほんの少しだけ憧れてたんですよね」
『あら。わたしは赤也くんの彼女じゃないよ』


自分で言って悲しくなった。無駄に期待しないように、「"まだ"彼女じゃない」とは言わなかった。


「今からなればいいんスよ。俺は名さんと海原祭を回りたいです」


赤也くんの言葉に思わず立ち止まる。

温かくて大きな赤也くんの手が肩から離れ、そのまま滑るように腰に手を回しながら、彼はわたしの目の前に立った。


「好きッス、名さん」


まっすぐなその瞳に射抜かれ、外れなくなった視線のまま首を縦に振った。