神奈川屈指の生徒数を誇る我が校であれど、空き教室は必ず生じるわけで、放課後、その一つを占拠する女生徒がいる。
姓名。D組の関わりのない生徒。


南向きに並べられた教室の一番隅で、他の建物に遮られることなく唯一西日が射し込む。
故に、教室としては向いていない。
そのため、ガタついた机や椅子の墓場になっている。


鍵もかけられず、特に掃除がされてるわけでもないこの部屋で、彼女は8つの机をくっつけてその上で眠っている。
顔に光が差そうがお構いなしに、ゆっくりと胸と腹が上下している。


生徒会として、空き教室とはいえ占拠されるのは迷惑なので注意に来たのだが、これだけ気持ちよさそうに眠られると起こす気にもならない。


テスト一週間前で部活はない。

どの程度眠るのかデータとして取っておこうか。
俺はその辺の椅子を姓の足元に置き、図書室で借りてきたばかりの本を開く。


一時間ほど経っただろうか。彼女は寝返りをうった。
よくこんな狭いところで寝返りをうてるものだ。
感心して目を向ければ、スカートが捲れ上がり、太ももがチラリと見えた。

驚いた。
彼女はニーハイソックスを履いていたのだ。
今日だけ、いや、普段から履いているがスカートに隠れてわからないのだ。


彼女はあまり肌を出さない。
夏でも黒いタイツを履き、長袖のブラウスと薄手のベストを着ていて、体育でも長袖長ズボンだ。
だからこの数センチの肌の露出が異常に官能的である。

何故だ。どうしてそういう格好をする。


小さく丸まって眠る姿が猫みたいだ。
何故か携帯でその姿を撮ってしまった。

一度高鳴った胸が収まらない。
本にしおりを挟み、立ち上がる。


「起きろ」


肩に手を添え揺する。

眉間にしわを寄せ、目を開ける気配がない。


「起きろ。襲うぞ」
『んー……柳くん?』


薄く片目を開き、周りを確認する。
コロンと仰向けになる。

立膝でさらに太ももが晒される。
開けた襟から鎖骨が見えた。


『何かご用ですか?』


ふにゃりと笑う。
いつも黙していて、笑う姿を見ないと聞く彼女の笑顔にまた胸が高鳴る。


「いや、空き教室を占拠してると報告があってな」
『ああ、ごめんね』


勢いをつけて、起き上がる。


『こうやってれば柳くんが興味を持つかなって』
「俺が?」


長話になりそうだ。行儀が悪いが机に座る。


『変でしょ?夏にこんな暑苦しい格好してさ』
「そうしてれば俺が興味を持つと」
『そ。単純だったかな』


いや、まんまとはめられた。
そんな格好をする理由、この空き教室で眠る理由が知りたい。

その上、あまりチラリズムや絶対領域など興味がなかったが、彼女のせいで好きだと自覚してしまった。


「調子が狂うな」
『んー?』


思っていた性格とも違う。
真面目そうにしているのに、こんなにもゆるい性格なのか。


『柳くんに気にしてもらえたし、明日からは普通の格好をするかな』


彼女はおもむろに袖を捲り、片足のニーハイソックスをひざ下まで下ろす。
普段見えない白い肌が露出され、目を逸らす。

くすくすと笑う姓。


『わたし、柳くんが好きだから気にしてくれると嬉しい』


靴下をグイッと上げて、彼女はぴょんと机から降りる。
その時にスカートが捲れ、また太ももが見える。

気付けば目で追っている。


『待たね!明日からはみんなと同じ格好をするから』


パタパタと空き教室から去っていった姓。
俺は廊下に顔を出し、呼び止める。


「ニーハイはそのままでいい」
『はい』


スタートの裾をつまみ、令嬢の如くお辞儀をする。
また見えた肌。

罠だ。釘付けになる。


ため息を吐く。
柄にもないな。笑えてくる。