今日も今日とて学校へ向かう。
満員電車だろうと、いつも座ってるやつの降りる駅を把握しておけばその場所に座れる。
座ったからには寝る。
カバンを抱えて最寄りまで目を伏せる。
ドンッ!
窓を殴りつける音と、ふわりと香る甘い香りに目を開ける。
顔を上げれば、目の前に同じ立海の制服を着た女生徒が、俺の頭の横に手をついて前屈みになっていた。
至近距離で目があったことに、彼女は少し顔を染めて目を逸らし身体を起こす。
『ごめんなさい』
彼女の肩口から見えたのは、大きなリュックを背負った男が見えた。
それが彼女を押したのだろう。
普段は眠っていて気付かないが、かなり混み合っている。
「座るか?」
『あと二駅だし』
右手でつり革を持って、左手にカバンを脚の間に挟むように持ち、左右と後ろからの圧力に華奢な身体では苦しそうだ。
ここで席を譲っても、周りから睨まれるだけだろう。
「カバン寄越しんしゃい」
『いいよ。平気』
無言で奪うようにカバンを俺の膝に乗せた。
今日は部活がなくてよかった。
テニスバッグを持っていたらさらにこいつを苦しませていただろう。
「お前さん、名前は」
『姓だよ。仁王くんだよね』
「プリッ」
両手でつり革を持った姓。
電車が止まり、リュックの男が降りる際にまた彼女を押したのか、今度は両手をついた。
「壁ドンなり」
『仕方ないでしょ。おっさんじゃなかっただけ我慢してよ』
柳生や真田みたいに真面目そうな彼女。
からかってやれば、またちょっと顔を赤くした。
さらりと姓の髪が俺の頬を掠めた。
さっきも嗅いだ甘いの匂い。
彼女とは少し不釣り合いな気がする。
「シャンプーか?いい匂いがするのぉ」
『お姉ちゃんがレビュー見て買ったけど匂いが苦手って言って、押し付けてきたの』
「お前さんっぽくないのはそのせいか?」
『え?』
最寄りに着き、俺は姓のカバンを持ち、彼女の左手首を掴んで、電車を出る。
ちょっと人をかき分けただけなのに、彼女の髪はぐしゃぐしゃになっていた。
ホームの端に寄り、手櫛で直してやれば、思いの外サラサラをしていて、また甘い香りがした。
こうも大人しく、よくも知らない男に髪を触らせて、この子は平気なのか?
「ほい」
『えっ、いつのまに三つ編みを』
あんまり大人しいものだからひと束三つ編みを結ってみた。
姓はそれをつまみ、少し見つめたあと、解くことなく、俺の手からカバンを取り返した。
「うわ、何するんじゃ」
ジッと首筋を見ているなと思えば、ネクタイを慣れた手つきで結び、上までキッチリシャツのボタンを留められた。
『今日は真田くんの抜き打ちだよ』
「プピーナ」
『キッチリした仁王くん見たら逆に止められそうだよね』
姓はクスクスと笑って、人の空いた階段の方へ向かっていった。
一瞬でも彼女のペースになってしまった。
あいつの言った通り、真田に止められ、裏があるんじゃないかと問い詰められた。
学校を探せば会えるだろうけど、また偶然に会えたらいいなと。
真田の言葉は右から左へ。ぼんやりと考えていた。
次会うときは、あいつらしい匂いがしとったらええな。