同じクラスにとても興味のある女子がいる。
当たり障りのない普通の女子。
姓名。挨拶をしたときに小首を傾げた子。
どうして首を傾げたかって俺を知らないのである。
それなりに学内で有名人だと思ってたんだけどな、と言えば、名前だけ知ってるかもと言っていた気がする。

それ以降、毎朝微笑みと挨拶を欠かさずしていれば、同じように返してくれるので、もっと話したいという気持ちがブクブクと膨れ上がる。


『わたしはこのままで』
「私も」
「よし、姓と影山はそのままな。他に」


授業に復帰してから二度目の席替え。
姓は6列あるうちの、窓際から一つ入った前から2番目に鎮座している。

目が悪い人や、誰に邪魔をされることなく先生の言葉を聞きたい人のために、前から横2列はくじ引きをする前に選ぶことができる。
姓はどちらかと言うとこの理由ではなく、これを使って友達と隣の席で居続ける選択をしている。
俺だって利用する手はないと思った。


「すいません、俺も」
「幸村か。どこにする」
「窓際の2列目で」


適当に黒板に書かれた座席表に幸村の文字が書き込まれた。

いい席だよ。陽が差し込んで暖かくて、意外と先生の死角で、俺の隣に姓がいるんだから。
小テストの答え合わせは姓と。教科書を忘れて頼れるのも彼女。英語やフランス語の会話練習も彼女だ。


「よろしく」
『うん、よろしく』


一通りの座席が決まり姓の隣に移動した。
幸い、前後はあまり話したことのない男子で助かった。

真横だとあんまり彼女の顔が見られないね。
一つ彼女が前なら見つめていても、黒板を見ているフリができるのに。


次の日、運良く英語の単語テストがあった。
答案を彼女と交換して、答え合わせ。
自身があったのだけれど、姓は丸をつけない。
自習だけじゃ補いきれなかったかと、ため息を吐こうとしたとき、彼女の濃いピンクのマーカーが動き、大きな二重丸を一つ書いた。


『幸村すごいね。満点じゃん』


差し出されたテストを受け取らずに見ていると姓は首を傾げた。
あ、その仕草好きだな。


「ちょっと子供っぽいなって」
『嫌だった?わたしはこうされると昔から嬉しかったから』
「そっか。じゃあ、姓が満点のときは俺もそうするよ」


一つだけ間違った姓の答案を差し出す。


『わ、幸村に間違い見られるの恥ずかしいかも』
「どうして?」
『こんな簡単なのも出来ないのかーって』
「俺ってそんなに嫌味そうかい?」
『ううん。だけど意地悪そう』


黒板に向き直り、間違った単語の訂正をして、プリントをファイルにしまい込んだ。


意地悪そう、か。
姓の色々な仕草が見られるなら意地悪してもいいかな。
そして、満点の答案用紙に大きな二重丸をつけてやりたいな。

幸いにも、この席ならば卒業するまで姓の隣を死守できる。
いつでもその機会はやってくる。


覚悟しててね、名さん。
俺は君の色々なところを知りたいから。