『ジャッカル、わたしは大きな決意をした』
「くだらないことでも笑ってやるよ。言ってみろ」
『あの角から出てきた人に恋する』
「……」
『笑えよ!』
ジャッカルの嘘つき!
こんな妙な決心をしたのは、友達に恋人が出来たからである。
羨ましさからいわゆる、恋に恋する女の子になろうと決意いたのである。
でも、誰に恋するべきかさっぱりわからない。
優しくって、この人が彼氏だったらいいなと思うことはいくらかあったが、寝て起きればすっかり彼のことなんて忘れてしまう。
心に刺さらない。相手に針がないのか、わたしの心が鋼か何かなのか。
そんな感じで初恋と言われるような経験はない。
でもまぁ、きっかけって何事にも大事じゃん?
食パン咥えて走ってる中、曲がり角でぶつかったあいつに恋するぐらいのノリ。
「女子とか、彼女持ちだったらどうすんだよ」
『ノーカン!彼女持ちは微妙なラインかな』
お試しで一週間ほど観察してみて、ときめいたら恋するつもり。
想うだけなら迷惑かけないし、学内でチラ見するだけのつもりだから、ストーカーまでにはいかないはず。
「そんなに頭弱いのに、よくマネージャーやってられるよな」
『楽しいように生きてるの!ぶっちゃけ柳のが動くし、後輩ちゃんも順番に手伝ってくれるからわたしいるのかな?』
プレーのデータや会計は柳の仕事だし、部誌はみんなで交代で書いてるし、ドリンク作りや洗濯物をしてても、誰かが手伝ってくれる。
柳生なり、赤也なり、他の後輩なり。みんな練習すればいいのにさ。
一年の秋頃に幸村に引っ張られてマネージャーになったのだけど、物覚えがいいわけでもなく、体力もない。
ただ、サボる仁王と毛利先輩を見つける能力には長けてる。
廊下で長々とジャッカルと話していたら、曲がり角に人の気配を感じた。
あそこ踊り場だから、階段の昇降だけかもしれないけど。
わー、ドキドキするなぁ。
「ジャッカルと、どうして名は項垂れているんだい?」
「腹でも減ってんのか?」
「保健室に行かれますか?」
なんでテニス部御一行なんだよ!
ブン太にデリカシーなさすぎ!柳生は紳士だな、本当に!
『ノーカン!』
「なんの話じゃ」
「名が曲がり角から出てきた奴に恋するとか言うからよ」
「くだらんな」
「そういってやるな、弦一郎」
そうですよ、くだらないよ真田。
でも、こういう時に微妙に説教しないから、この話が赤也に拾われて話を無理やり膨らむんだよなぁ。
「じゃあ、俺に恋してくださいよぉ!ね?」
ほらね。残念ながらノーカウントです。
腕にしがみついてきた赤也は大層喜んでいる。
かわいい。けれど、君にはしません。
「ようやく俺のことを見てくれるわけね」
「精市ばかりではないぞ。誰よりも名を知っているからな」
「慕われる以上、責任は取らせてもらう」
『あの?』
「こんときばかりは嘘偽りなくいくかのぉ」
「エスコートならお任せを」
「絶対惚れるから俺にしとけよ」
「俺が真っ先に立候補したのに!」
あー、まずい方向に進んだ?
チラッとジャッカルを見れば、乾いた笑い。
『わたしに恋は早いみたいだから!やっぱなし!』
「名!」
なんでみんな必死なんだよぉ!