美術部というものは、描画より、生乾きの作品をいかに汚さず移動させるかに集中する気がする。
机にスクールバッグを投げ置き、その上にブレザーを脱ぎ捨てる。
カーディガンも学校指定のお高いものだから、脱いでブレザーの上にぽい。
ブラウスの袖を捲り、乾燥棚から1メートル四方の描きかけの作品を引き出す。
今日も無事にキャンバスをイーゼルにセット。
あ、手に絵の具ついた。がっかり。
さて、絵の具を出すぞ。ってところでひとりぼっちの第二美術室の扉が開かれる。
「姓」
『なんだよ、跡部』
ここのところ毎日と言っていいくらいだ。
テニス部部長で、生徒会長で、完璧人間で、成績もいい、何様俺様跡部景吾様が、この美術室の部室である第二美術室に来る。
ここは授業でも使わない物置みたいなところだから居残りや補講してる子は来ない。
第一、跡部が補講になることなんてないし。
「お前の制服が乱れすぎだからな」
『スカート切ってないし、ちゃんと指定の服着てるのに』
「は?嘘だろ」
わたしはスカートを捲り、裾にある小さな校章の刺繍を見せる。
ついでにウエストも。ほら、巻いてない。
跡部もしゃがんで確認する。
目の前で跡部が跪いてる珍しい光景だ。
この光景、よく考えたらめっちゃ恥ずかしくない?
「なんでこんなにスカート短いんだ?」
『中学に入ってから10センチも背が伸びたからね』
女の子は中学で伸びるって聞いてたけど本当だった。
おかげで膝上8センチ。校則違反である。
だけど、校章のおかげで切ってない証拠がある。
生徒指導からも黙認されている。
だけど、氷帝の制服って高すぎて買い直すことは難しい。
ブレザーは着ろと言われてるから着てるけど、肩もキツイし、袖も足りなくて、行き帰り以外は椅子に掛けている。
「まぁ、それにしたって絵の具飛ばしすぎだな」
『うっ』
跡部はプリーツを広げる。めっちゃ脚見えてない?
「大根脚」
『この!』
「ここに絵の具飛んでるぞ」
跡部はニヤリと笑い、つーっと指先が太ももを伝う。
くすぐったい。
そうか、さっき手についた絵の具が付いたのかも。
「まぁ、嘘だけどな」
『はぁ!?』
手のひらで撫で上げられる。それと一緒にスカートが持ち上がる。
大きなゴツゴツとした手が太ももを這って、ぞわぞわする。
撫でながら、跡部は立ち上がる。
『何すんのよ』
「無防備さに欲情しちまってな」
喉を鳴らして笑い、太ももから手が離れる。
顔や身体が暑い。最悪だ。最低だ。
「最後までしてやろうか?こんなところ誰も来ないだろ」
『それがしたくて毎日来てたわけ』
なにそれ。最低。
軽そうっていうか、人気のないところだから無理やりヤっても黙ってくれるって思われてんの。
「ちげぇ、お前が気になってたから」
『はい?』
「俺様がお前のこと好きだって言ってるんだ」
頬を思いっきりつねられる。
さっきからなんだか理不尽だ。
スカートが短いだの、太ももを撫でられるだの、頬をつねられるだの。
わたしから離れて、美術室を出ようとする跡部の耳が少し赤い。
ん?好き?
『待って待って跡部!』
扉に手をかけた跡部の腕にしがみつく。
『喜んで彼女になってやろう』
「アーン?なんでそんなに偉そうなんだ」
空いている手で頭をくしゃりと撫でられた。
「じゃあ、続きするか?」
『ダメです』
舌打ちされた。
まぁ、いずれ、ね?