「ということで、我が3ーCはイバラ姫をやることになりました」
夏休みが明けて最初のLHR。
頭に席替えをすれば、今まで空白だった隣人がまたも隣の席になっていた。隣人は長期入院から復帰して、ちゃんとその空白を埋めているのだけど。
席替えが終われば海原祭、学園祭の展示の話になった。
根本的に自由参加である3学年なので、半分意識を眠りの世界に預けながら、右から左に話を聞いていた。
「言わずもがな、王子は幸村なんだが」
クラスの半数が彼を指名すれば隣人、幸村精市は仕方ないねと頷いた。
病み上がりに何を、といってもテニスの全国大会で大暴れしたらしいので学園祭の舞台くらいちょろいものだろう。
「誰もが姫をやりたいであろうから、あみだくじを用意して公平に決めようと思う」
ああ、これはまずいと、意識を一時的に戻して挙手する。
もしここで何かしらの役を与えられてしまえばサボるなんて許されない。大道具とかになってやってますよ感だけ出してサボりたい。
『わたしは姫を辞退します』
「何を言っているんだい、姓。俺は辞退できないのに、お前ができるなんて不公平じゃないか」
幸村が隣から睨みつけながらそう言った。
いや、お前も拒否すればいいだろう。物語のほとんど眠りについているとはいえ、目立ちたくない。
海原祭委員は幸村の意見に頷き、当たらなければいいだけと嗜められた。16分の1とはいえ、嫌なものは嫌なのだ。
委員が黒板に書いた即席のあみだくじ。幸村が俺がえらんでいいよね、文句は言わないから。と一つ選ぶ。
もう嫌な予感しかしないし、当たる気がする。
『幸村は眠っていたとはいえ、100歳差のある姫と結ばれるのか。どんまい』
「その100歳年上の姫は姓になってもらうつもりなんだけど?」
何てことを言うんだ。わたしはギロリと幸村を睨んだ。
縦軸のみが描かれていたが、委員によって横軸が書き込まれる。その間に女子に番号が振られた紙がランダムに配られた。
ここまで手間のかかる抽選をしなくても。確かに不正はないけど。
わたしは折りたたまれた番号の紙を見ることなく手のひらで握りつぶした。
悪ふざけと思うぐらいに書き込まれた横軸。
幸村が選んだところから右に左にと振られながら終点へ。
「9番、誰ー?」
あみだくじにより選ばれた番号。ざわつく教室。誰も手を上げない。
まさかと、味のなくなったガムを包んだように丸まった紙を広げる。
紛らわしくないように漢数字で書かれた紙。
もう一度くしゃりと手の中で丸めた。
「往生際が悪いな、姓は」
幸村はわたしの手から紙くずを取り上げ、にこりと微笑んだ。
『残念』
わたしの手の中にあった紙は6番。
幸村の眉間に深くシワが刻まれた。
それで結局9番は誰だったのか。それは休んでいる一人の分。時間をかけておいて仕切り直しとなった。なんじゃそりゃ。