「壁ドンっていいもの?」
『巷ではそう言うよね』


部室のテーブルに座って子供のようにプラプラ足を揺らしてわたしが部誌を書き終わるのを待つ幸村。
幸村が机を揺らすから文字が書きにくいんだけど。


手伝えって言えるものじゃないから待っているのは暇かもしれないけど、掃除くらいしててもいいのよ。
だけど、みんながランニングに出ている間にわたしがやっているんだけど。洗濯物も、ボトルを洗うのも。

だから口を動かしているんだろうけど。


「壁ドン、やってみてよ」
『わたしがするんだ。待って、もう書き終わる』


ロクでもないこと考えるなぁ。
幸村って追い詰めたりすることは好きだろうけど、逆ってどうなんだろ。
書き終わった部誌を所定の位置に戻す。いつかの後輩がこれを見てメニューを考えるだろう。

爛々と目を輝かせ、机から降りた幸村に近づく。やりづらいな。


『ところで幸村、わたしのタオル返してくれない?』


幸村の首にかかっている花の刺繍のされた薄い黄色のフェイスタオル。使ってないならまだしも、今日の部活中ずっと首に巻いていたものだ。
汗を吸って臭うし汚いから、冗談でも首にかけないでもらいたい。


幸村はニコニコと笑ったまま後ろに一歩退いたので、わたしは一歩近づいた。
あ、作戦だ。壁ドンの筋書き通り幸村は壁と距離が詰まる。癪だな。


『近い』
「名の腕は短いからね」
『ぐっ……』


ご所望どおり、壁に両手をつけて壁とわたしでサンドイッチ。
幸村の肩あたりに手をついて、至近距離で見上げる。身長175センチの彼に巷で噂の壁ドンは無理な話だ。


「名からこんな距離を詰めてくることなんて滅多にないから悪くないね」


幸村はでもちょっと違うなと言って、わたしの肩を掴んでぐるりと身体を捻った。わたしは背中を強く打った。


「俺はやっぱりこっちだ」


わたしの耳の近くで肘をついて、覆い被さる。あまりの近さに顔を背ければ、より幸村の顔が近づいた。
息!息が当たってます。勘弁して。
顔を見なくても幸村がどんな顔をしているかわかる。目を細めて口を歪めて、わたしの反応をずっと見ている。


「いいものだね、壁ドン」


顎を掴まれ、抵抗する間もなく奪われる唇。
震える手でタオルを取り返すことはできたけれど、呼吸は与えてくれなかった。