暑い。どうして体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下は屋外なんだ。

あそこで体操服で水浴びしてる女子が羨ましい。
わざわざ夏休みに駆り出されて、なんでわたしはこんな汗の吸わないブラウスの制服なんだ。


「あっ……!」


わたしも水浴びができたらしい。
濡れて顔にかかった髪をかきあげる。
ホースを片手に呆然としている女子に手を振る。

水を浴びた瞬間は冷たくて気持ちがよかったけど、水を吸ったブラウスが気持ち悪い。

タオルは教室か。
なんで1階からしか繋がってないかな。
3階まで遠いし、その上教室が端っこ。運がないね、4月からそこだけど。


「おっ」
『え?』


校舎に入る扉の前。
うつむいていたから、誰かとぶつかりかけた。
顔を上げれば、ユニフォームの忍足。


「何なんその格好」
『水かけられた』


わたしの向こう側に見えるびしょ濡れの水道。女子たちは姿を消していた。


「あかんなぁ、その格好」


ニヤニヤ笑われて、視線を下せば、ぴったりと身体にくっついたブラウス。
キャミソールでブラは見えてないけど、胸元や肩の肌が透けている。


「見たのが彼氏でよかったなぁ。他の男やったら剥がれてたで」
『忍足だって剥ぐじゃん』
「せやな」


忍足は自分の首にかけていたタオルをわたしの肩にかけた。


『汗臭い』
「やかましいわ。夏やし運動してるんやからしゃーないやろ」
『ごめん、ごめん。ありがとう』


ブラウスや髪の水気を拭き取る。
本当は汗臭くなんてない。忍足の匂いが染み付いててドキドキする。


「着替えは?」
『教室に体操服あった気がする』
「夏休み入ってんのに置きっ放しかいな。悪いように使われんで」
『忍足じゃあるまいし』
「彼氏のイメージ悪ない?」


忍足はわたしの手を掴んで歩き出す。
そっちはテニスコートが。


「どうせ教室で特に何も思わんと脱ぎ出しそうやから、俺のユニフォーム貸したるわ」


長い足で早歩きで進むから、わたしは小走りになって引っ張られる。
もつれて転ばないように必死についていく。

誰もいない部室に連れ込まれ、忍足はロッカーを漁る。


「ほい、これ」
『ありがとう』


綺麗に畳まれたユニフォームを受け取る。


『出て行ってくれないの?』
「散々誘っといて見せてくれへんの?」
『えっち』


「しゃーないなぁ」と言って忍足は部室を出て行った。
わたしはブラウスを脱いで、ユニフォームを被る。
うん、大きい。五分袖になってる。裾もお尻まで隠れてる。


『着替えたよ。ブラウス乾いたらすぐ返すね』
「やっぱ名ちゃんズルいわ」
「忍足!イチャついてないでコート戻れ」


手で顔を隠して表情を見せてくれないけど、跡部に呼ばれ振り向きざまに見えたちょっと口元がにやけてたのが見えた。
やっぱ、変態じゃん。

ブラウス、こんなに暑い日だからすぐ乾くだろうけど、部活が終わるまで着ておこうかな。