「姓」
風紀委員として正門に立っている俺の前を、大切そうにカバンを抱いて通り過ぎようとする姓を呼び止めた。
ギクリと肩を震わせる。目も泳ぐ。
彼女の服装は何ら問題はない。
まぁ、ほんの少しだけ着崩しているが、俺もリストバンドや帽子を被っている手前見逃す。
問題はカバンの中身である。
女子のカバンというものは、もしものためにと本当に必要なのか?と思うくらい余計なものが多いと思う。
母さんや義姉さんは女子中高生はそんなものと言っていた。
それは置いといて、姓のカバンには本当に余計なものが入っている。
「これはなんだ。お前が食うのか?」
『う……』
猫缶である。
姓は学校に住み着く野良猫に餌を与えている。
「長期休暇やお前が卒業した後のことは考えているのか?」
『わかってるけど……』
「可愛いだけに餌を与えて、狩猟本能が衰え、食いっぱぐれれば保健所に行くよりもつらい思いをする可能性は考えているのか?」
「はい……」
姓は背中を丸くして、明らかにしゅんと落ち込んでいる。
俺に説教されないとほっと胸を撫で下ろす奴らや、クスクスと笑いながら通り過ぎる奴らを睨みつける。
これが初犯ならばまだしも、2度3度繰り返されているのだから、俺だっていい加減にしてほしいと思っている。
相手は生き物だから、絶対に持ってくるなとも言えないし、姓のことを思うと保健所に連れて行くとも言えず。
俺は大きな溜息を吐く。
「放課後、そいつらを連れてこい。住む場所を移そう」
俺は姓に甘い。女子だからという理由ばかりではない。
パッと明るくなる彼女の顔にドキリと胸が跳ねる。
放課後、姓は昇降口で待っていた。
猫のいる場所に案内され、猫缶を開けると茶トラが飛び出してきた。
それに続き、白茶と白が俺に警戒しながら茂みから出てきた。
3匹ともまだ小さい。半年くらいだろうか。
「名前とかつけてるのか?」
『ブンとヒロとマサ』
「……」
おそらく真っ先に飛び出してきたのがブン。紙皿に出されるのをお行儀よく待っているのがヒロ。あくびをしたのがマサだ。
『ちなみに、セイとゲンとレンは家にいます』
「……そうか」
写真を見せてもらったが、仲良くベッドに眠っている三匹の黒猫。
長毛のゆるいカールなのがセイなのだろうな。
釘を刺さないとあと2匹ほど増えそうだ。
『真田くんの家はいいの?猫ちゃん』
「既に庭に何匹か住み着いている。学校にいるより幾分かいいだろう」
ご飯を食べ終えた猫を姓が抱え上げ、一番おとなしいと思われる一匹、ヒロを俺に差し出した。
残りの2匹は姓の腕の中でおとなしくしている。
猫を抱えてアスファルトを歩くことが以降何度あるか。
すれ違う人にクスクスと笑われる。
『わー、本当、真田くんの家大きい!』
玄関から庭へ直接向かう。
そこに三匹を下ろすと、警戒してその場を動かない。
「どうした弦一郎、可愛いのを4つも連れてきて」
「お祖父様……」
『初めまして、お邪魔してます』
縁側に座っているお祖父様に姓は頭を下げた。
お祖父様の言う《可愛いの》に自分が含まれているということに気付いていないのであろうか。
『たまに見に来てもいいかな?』
「いつでも来てくれて構わない。門が開いていれば勝手に入っても構わんだろう」
『いやいや、それは』
「姓はこいつらの親だろう。責任を持て」
『うん』
姓は少し恥ずかしそうにしていた。
それから彼女を駅に送り、家に戻ればニヤニヤした家族に迎えられた。
猫も彼女も真田家に馴染むのはまた別のお話。