『ウッ……』


名は口を押さえ、その場に蹲る。
レギュラー総当たり試合の途中だったため、審判をしてそばにいた幸村が彼女に駆け寄る。


「大丈夫?!」
「姉ちゃん、昨日からこんな感じなんだよな」


幸村は名の背中をさすり、そっと抱き寄せる。
名は浅い呼吸を繰り返し、口元を押さえ、必死に吐き気を抑え込む。


「まさか、俺の子」
「は?」
「ついにか」
「え?」
「やったな、精市」
「は?」


事態を聞きつけ真田や柳も駆け寄ってきた。
赤也は幸村の俺の子発言や、真田と柳がそれを祝う発言に赤也は混乱する。
名の昨日からの様子や、幸村の胸の中で汗を浮かべ辛そうに息をする様子を見て放心状態だ。


「俺、おじさんになるの?」
「そういうことだな」
「幸村部長が兄貴に?」
「よろしく赤也」
「えええ!?」


落ち着いた名に赤也は駆け寄る。
揺す振りすぎないように、肩を掴み無理矢理向き合う。


「ねねね姉ちゃん早過ぎるって!なんて言ったらわかんねぇけど、高校生だし」
『でも殺すことになるんだよ?』
「わ、わかってるけど……でも、」


名は赤也の頭を撫でる。昔は大きく感じていた姉の手が小さくて、昔と変わらず温かい手だった。


「姉ちゃんと幸村部長の好きなようにすればいいと思う」
「そう?ふふ、ありがとう赤也」


幸村は赤也から名を取り上げるように後ろから抱きしめた。
幸村の優しい笑顔を見て、ああこれが父になる人の顔なのかと、簡単に胸の中で落ち着いた。


「まぁ、嘘なんだけどね」
「は?」
『精市とそんな関係なわけないでしょ』
「えぇ……」
『あ、でも気分が悪いのは本当だから』


今度は赤也が地面に座り込む。


「いやー、真田も蓮二ものってくるからびっくりしたよ」
「たまには、な」
「いいリアクションだったぞ、赤也」
「練習中断して悪かったね。ほら、戻った」
「へーい」


赤也はズボンについた砂を払い、ラケットを持ってコートに戻る。試合途中で駆けつける姉思いのいい弟だ。

名は幸村に支えられ、木陰へ移される。もう大丈夫だと伝えても、幸村は念のための一点張りで、陽の当たるコートへ帰してくれなかった。


「いつか俺の子を産んでもらうんだから、元気でいてもらわないと困るからね」
『な、なんだそれ』