姉ちゃんの部活中いつも肩にかけているカバン。あのカバンから何でも出てくる。
何を言ったら出てこないのか観察してみることにした。
「なぁ、名、ガム持ってない?」
『あるよ。グリーンアップルじゃないけどいい?』
「へへ、サンキュー。へー、ブルーベリーじゃん」
『それ好きなの』
ガム。
「痒いと思ったら蚊にやられてるじゃねぇか」
『頭じゃなくてよかったね。はいこれ』
「悪いな。頭は余計だ」
『後ついでに虫除けにハッカ油。涼しくもなるよ』
「マジだ。ありがとう」
ガム。かゆみ止め。虫除け。
「なんじゃ、名。テープ持って」
『手首調子悪いんでしょ。左利きなのに右手駆使したから』
「お見通しか」
『巻いてあげるから手を出して』
「ピヨ」
ガム。かゆみ止め。虫除け。テーピング。
「名さんすいません。絆創膏お持ちですか?」
『あるよ。比呂士はマメでも潰れた?』
「もう四年もラケットを握っていますからそれはないですよ。ですが、昨日火傷をしまして擦れて気になるので」
『珍しいね怪我なんて。どこ、貼ってあげる』
「助かります。ここなんですけど」
『はいはい』
「おや、普通の絆創膏ではないのですね」
『モイストヒーリングってやつ?患部が一晩経ってるからわからないけど、効くらしいよ』
「ありがとうございます」
ガム。かゆみ止め。虫除け。テーピング。変な絆創膏。
『弦一郎待った、アイシングしよう』
「む。このくらい」
『前は手塚だから勝てたけど、跡部なら負けたかも知れないんだから労って。日焼け止めも塗らないと火傷するよ』
「わかった。従おう」
ガム。かゆみ止め。虫除け。テーピング。絆創膏。アイシングスプレー。日焼け止め。
「名、ブドウ糖持ってるか」
『ブドウ糖は持ってないけど金平糖は持ってるよ』
「それでいい」
『お疲れ』
「相変わらず何でも入っているカバンだな」
『一度無くてあったらいいなって思った物は入れるようになった』
「ふむ。もし今横になりたいので枕が欲しいと言ったら?」
『膝がある』
「その時はありがたく借りるとする」
ガム。かゆみ止め。虫除け。テーピング。絆創膏。アイシングスプレー。日焼け止め。金平糖。
「名」
『はい。タオルと汗拭きシート』
ガム。かゆみ止め。虫除け。テーピング。絆創膏。アイシングスプレー。日焼け止め。金平糖。汗拭きシート。
「名」
『右足テーピングするから座って』
姉ちゃん、幸村部長に名前を呼ばれるだけで何を求めてるのかわかるのかよ。
仲良いな〜って思ってたけど、夫婦かよ。親父も母さんもそこまでじゃないけど。
「名」
『何?』
「ゴム持ってない?」
『あるけど』
「あ、髪留めじゃなくてさ」
『輪ゴム?それ使っていいけど』
「いや、コンドーム」
『はーーー、持ってないです!朝からなんだよ』
「俺は朝から万全だけど?」
『夕方だからいいってもんじゃない』
ガム。かゆみ止め。虫除け。テーピング。絆創膏。アイシングスプレー。日焼け止め。金平糖。汗拭きシート。ヘアゴム。
うん。あのゴムは持ってなくてよかった。
持ってたら姉ちゃんにどんな顔して話せばいいかわかんない。
姉ちゃんは顔を真っ赤にして、俺の方に向かってきた。
『サボってたら弦一郎に怒られるよ』
「あ、うん」
『あと、靴紐。新しいの渡すから通し直してよ』
え、嘘。切れかけてる?……本当だ。
「名って初心だね。俺と名の仲なのに」
「え?」
「ふふ、冗談」
ガム。かゆみ止め。虫除け。テーピング。絆創膏。アイシングスプレー。日焼け止め。金平糖。汗拭きシート。ヘアゴム。靴紐。
姉ちゃんのカバンの謎より、幸村部長との関係が気になって仕方なくなってしまった。