『うわぁあああ!』
「な、何!?」
『バサバサって蛾が!』
「待って抱きつかないで!動けないし、追い払えないよ」
『無理ぃ』
「かわいい。じゃなくて、落ち着いて」


幸村は名の頭を撫でる。
部室から飛び出してきて、力一杯抱きついてきた名が幸村の胸で涙を拭っている。

名って、蛾が苦手だったのか。プチパニックを起こしているので、落ち着くまで待ってやる。
もっと苦手なものはないかな。こうやって甘えくるなら、嫌われない程度にいじめてみたい。


「お、え?あ?幸村くんおめでとう?」
「お熱いのぉ」
「違う。って言いたくないけど。ちょっとね」


部室に蛾がいることを伝えれば、仁王がフラッと部室に入っていった。


「でかっ!これ名じゃなくてもビビるわ」


仁王の両手に摘まれた蛾は10センチも超えていた。
これが壁に引っ付いてたら叫びたくもなるよ。


「仁王が逃がしてくれたからもう大丈夫だよ」
『……うん。ありがとう』


少し赤くなった目で上目づかいはちょっとズルくないかい?


「幸村くん堪えてる」
「ありゃ神じゃなくて仏じゃのぉ」


丸井も仁王もうるさいな。

落ち着いた名は俺に抱きついていることに気が付いたのか慌てて退く。
それはちょっと傷付く。けど、耳が少し赤いからチャラにしておこう。