『どうしたの赤也くん』
不機嫌そうに唇を尖らせて、顔はそっぽを向いているけど足をふらふらと揺らして構って欲しい子供みたい。
「姓が赤也よりチョコレートを貰っているからだろう」
図星を突かれたのか柳くんをギロリと睨みつけた。普段から慣れているのだろう、柳くんはなんとも思っていない。
今日はバレンタイン。校内が一番甘い匂いを漂わせる日。
女子は好きな男子のために、友達のために、先輩後輩のために、口止めに先生にもチョコレートを用意して登校してくる。
手作りだったり、アソートを配ったり、チョコレートとは関係ないものを渡していたり。
別に学内でお菓子の持ち込みを禁止してないけど、毎年真田くんが眉をひそめる。
かくいうわたしも朝一番に赤也くんにあげたけど。
胸にぎゅっとチョコレートを抱きしめて、キラキラの笑顔で受け取ってくれて、手作りにして正解だったなぁ。
「幸村部長の次くらいに貰っちゃって」
恨めしそうにカバンと一緒に置かれた2つの紙袋を睨む。
幸村くんもたくさん貰っていた。受け取らないという選択ができないくらいに投げ渡され、机に積まれ。副会長もその中に忍ばせていたけど、すぐにバレてたっけ。
わたしも廊下を出れば友達や後輩からチョコレートを手渡された。
明日から自由登校になる三年生だから、感謝を伝えるためにこぞって手紙を添えて贈ってくれた。
去年も同じだったからお返しも用意してたけど、あっという間に無くなってしまった。
「では、俺はここで失礼しよう」
『うん。柳くんお疲れ様でした』
「姓もお疲れ様。答辞頼んだぞ」
気を利かせてくれたのか、生徒会室の片付けや引き継ぎを済ませた柳くんは生徒会室を去った。
「あーあ、俺も先輩にあげればよかった」
『逆チョコってやつ?』
「なんかズルいッス。モテちゃって」
あらあら。なんだか小犬みたい。しゅんとしちゃって。
思わず手が伸びて赤也くんのくるくるの頭を撫でた。子供扱いしすぎるともっと拗ねてしまうけど。
「先輩、卒業なんですよね」
『うん。赤也くんより一年早くね』
わたしの胸に顔を埋めてぎゅっと抱きついてきた赤也くん。
卒業するから別れるわけじゃないし、校舎を隣に移動するだけなのに。寂しいんだね。
たった一年しか変わらないのに、わたしたちには大きな差があるんだ。
そう思うとわたしもなんだか余計に寂しくなって抱きしめ返した。
校舎で赤也くんとしばらく会えなくなるんだもの。制服だって変わってしまう。
『春休み、部活が忙しいだろうけどデートしようね』
「当たり前じゃないですか。試合の応援も来てください」
『もちろん。夏の大会も応援に行くよ』
わたしの胸から顔を上げてニカッと笑った。
「ホワイトデー楽しみにしてください」
一瞬身体を離した赤也くんは、自身の胸にわたしを押し込んだ。
『うん!楽しみにしてる』
赤也くんの背中に手を回した。あったかい。