「え、蓮二の好きなタイプ?付き合ってるのに知りたいの?」
『やっぱりちょっと気になるな〜って』
「ふぅん。確か計算高い女性だったかな」
『珠算二段です!』
「じゃあ大丈夫だ」
「今、先輩バカにされましたよ」
『あれ?』
蓮二くんの好みの女の子について幸村くんに訊ねてみたんだけど、結局くすくすと笑われる結果になってしまった。赤也くんも呆れたと笑う。
本人に聞いても、仁王くんに聞いても多分はぐらかされてしまうから幸村くんに聞いたんだけど、ちょっと違ったみたいだ。
それにしても、計算高い女性とは。
うーん。ドラマに出てくるお仕事も恋愛もうまく生活リズムに取り込めてる女の人ってことかな。
「無理に姓さんがなることもないと思うけど。あくまで好みなんだし」
そうは言われても、好きな人にもっと気に入られたいと思うし、好きな人の好きなものを好きになれたらと思う。
でも、馬鹿にされちゃうくらいわたしには遠い存在なんだと思う。
「昔にどういう意味で蓮二がそう言ったのか知らないけど、一枚上手を飼い慣らしたい意地か、予想のつかない行動に新鮮さを持ちたいか、かな」
「それなら二番目は大丈夫っスけどね」
「天然だからね」
うーん。幸村くんも赤也くんも考えてくれたけど、それらしい答えは出なかった。
気の強い女性や、高飛車ってわけでもないだろうし、蓮二くんの一枚上手の行動を取れるほどわたしは賢くない。
「何の話をしてるんだ?」
『蓮二くん!』
「蓮二の好みの女の子の話だよ」
「俺の?」
通りがかった蓮二くんも会話に混ざるかと思えば、幸村くんと赤也くんは入れ替わりで立ち去った。
蓮二くんの話をしていた後に突然二人きりにされるとなんだか気まずい。盗み見るように蓮二くんの顔を伺えば、わたしを見ていたのか微笑んだ。
「好みだから必ず好きになるわけではないぞ」
大きな手が頭に乗った。
頭の中に蓮二くんの好みに該当する女の子が浮かんだから。
「中学生の頃の話だ。そう言っておくことが得策だったんでな」
『……モテてたんだね』
「目立ちはしたが、どうだろうか」
スラリと長身でモデルのようなルックスに、テニスが出来て、成績は学年の1番で、生徒会に入っていて、落ち着いてちょっと憧れのある大人っぽさで多分モテた。ううん。絶対モテた。
わたしに前の恋なんて教えてやくれないからこそ、今ようやく出てきた好みの女性のタイプという言葉がずんと重く感じた。聞いたのはわたしからだけど。
「お前も大層人に気に入られただろう」
『うん。みんな仲良くしてくれたよ』
「俺はその性格故か、距離感を考えずに名に接触する輩がいることが心配だ」
大きな手が優しく存在を確かめるかのように何度もゆっくりと頭を往復した。
蓮二くんの眉を八の字に下げ、少しだけ眉間のシワが寄っていた。
蓮二くんの言う通り、たまにグループ行動で一緒になった子が、話に割り込んできたり、ボディタッチが突然増えることがある。
女の子同士ならそのまま話に花が咲いたり、ハグしたり抱きついたりはよくあること。だけど、男子はボディタッチだけは辞めてほしいと思うところがある。お客様には、会釈して何事もなかったように去るしかない。
蓮二くんは見抜いて気にかけてくれてたんだ。嬉しい。それだけで頬が緩んだ。
「ところで、名の好みの男性はどんな人だ?」
『蓮二くんです!』
「そ、そうか」
目を見開いた蓮二くんは困ったように笑った。何か間違っていただろうか。
首を傾げ、彼を見上げれば、ぐしゃぐしゃと乱雑に頭を撫でられた。急に乱暴になってどうしたんだろう。
「お前はいつもデッドボールだな」
『え?』
「帰るぞ」
蓮二くんに手を引かれ教室へ向かう。
元々コンパスの違いがあれど、わたしに合わせて歩いてくれるのに、今は合わせることも早歩きで廊下をずんずん進む。
小走り気味になりながら、ボサボサになった髪を空いた手で整えながら、蓮二くんの後ろ姿を見つめる。
『蓮二くん。転んじゃう』
「転んだら運んでやる。今しばらくこのままだ」
『えー?蓮二くん照れてます?』
無言。図星かな。
『蓮二くん、わたしはあなたの好みになれますか?』
「なるものじゃない。それは俺次第だ」
たどり着いたわたしの教室の前。立ち止まった蓮二くんの顔を覗き込む。やっぱりちょっと照れてる。
蓮二くんの照れ顔はレアなのでにやけて顔が崩れる。よく思わなかったのかいつもの顔に戻ってしまった。残念。
机の中の教科書をカバンに詰めて、別れて同じくカバンを手にした蓮二くんと合流する。
差し出された手を取る。
「計算高い女性が好みというのは昔の話だ。更新しておけ。俺の好みの女性は」