「名気をつけろ。妖怪焼き魚くれがそこにいるぞ」
『え?わあ!!』
たまたま勉強会として蓮二くんのお家にお邪魔をしていたら、突然の豪雨と雷で立ち往生。
傘を借りれば何とか駅まで辿り着けるだろうけど、蓮二くんのご家族に止められ、わたしの家族に迎えに来てもらう話になったのだ。
しかし、雷で架線がショートして電車が止まり、タクシーやバスで道が混雑し、雨による視界不良の減速でまだ着きそうにない。
『にわか雨なんて風情のあるものじゃないね』
「ああ。昨今のゲリラ豪雨は異常だ」
未だに止まない雨は、雨戸を叩き、滝の下と錯覚するぐらいの音を立てている。
まだまだ遅くなりそうだと、蓮二くんのお母様は晩御飯を用意してくださった。
『ダメだよ〜』
「うな〜」
妖怪焼き魚くれもとい、蓮二くんのお家のにゃんこはわたしから焼き魚を奪おうとお箸を持つ手にしがみつく。
普段は遠目に、わたしを柳家の異質として見張っているのに、今はわたしにじゃれついている。
「行儀が悪いぞ。お前の分もあるんだから待ちなさい」
蓮二くんに首根っこを掴まれ、わたしの腕から引き離されたにゃんこは次にわたしの腰に甘えた声を出しながらすり寄ってくる。
猫撫で声だ!この感じ、ドラマで女の人が甘えてるときみたいだ!謎の感動をしていれば、今度は膝の上に乗り、胸に擦り寄る。
ビー玉が爛々とわたしを見ていてなんだか食べづらい。
蓮二くんが手を伸ばし、退かせようとしてくれるのだけど、威嚇と猫パンチが飛んできて蓮二くんは手を引いた。
「うちの子がすまない。名に慣れてきて甘えているようだ」
『ずっと警戒されてたみたいだからちょっと嬉しいな』
お魚のためのビジネスかもしれないけど、衛生的に動物が飼えない環境にいるわたしからすればそれでも嬉しいものだ。
食事中に動物に触るのは良くないから我慢我慢。
お魚をもらえないとわかった今、どこかに行くかと思えば膝の上でくつろぎ始めて、わたしが立てなくなってしまった。
長く正座をするコツを心得ていても、邪魔とは言えず立てないのはなかなかつらいものがある。
でもこれが猫飼いの特権か。
「嬉しそうだな」
『猫って中々触らないんだもん』
食事を終えても膝の上で丸まっていて、食器を下げるお手伝いもできなかった。
にゃんこもご飯の準備ができたというのに、相当居心地がいいのか見向きもしない。
いつの間にか雨の勢いも弱まり、無事に親が迎えに来てくれたのだけど、切なげににゃんこに鳴かれてしまい、後ろ髪が引っ張られる。
「また来ればいい。こいつと遊んでやってくれ」
『うん!絶対』
蓮二くんの腕に抱きかかえられたにゃんこの頭を撫でながら、一生の別れのように鳴くから、わたしもなんだか泣きそうになる。
それとだ。そう言って蓮二くんは少し屈み込む。
「名、行くよ。すいません、長々とうちの娘が」
「いえいえ、娘がもう一人できて賑やかでしたよ」
お家の方にもう一度お礼をして柳家を後にする。
涼しい顔をして手を振る蓮二くんに対し、わたしは目を合わせられずに小さく手を振った。
「俺を構うついでに、な」