「あ、姓ちゃん久しぶり」
『お久しぶりです、葛西先輩』


天文部の部室を覗けば、中学の時も天文部に在籍していた葛西先輩が座っていた。

葛西先輩はとても背の高いイケメンの二年の先輩だ。星に手を伸ばしてたら190センチになっちゃったと昔言っていた。
宇宙以外に関してはからきし。わたしと違って数学は得意。ロマンチストかと思えば、星に関する神話に関しては全く。頭が痛くなるようなデータばかり口にしてモテない。


「後ろのは彼氏?」
『えへへ』
「初めまして、幸村精市です」


仮入部の届けを出しに行くと言えばついて行くと言って、精市くんはわたしの両肩に手を添えてにこりと微笑んでいる。


「俺、テニス部に入部するつもりなんですけど、兼部って大丈夫ですか?」
『え?』


初耳だ。そんなに活動的な部活ではないし、日が暮れてからの活動がメインだから、掛け持ちできなくもないけど。
わたしは精市くんの顔をジッと見つめた。
なんだか葛西先輩を睨みつけているみたいで、わたしの肩に添える手に力がこもっていた。


「あっはっは、威嚇しなくても姓ちゃんに何もしないよ」


睨みつける意図がわかったのか、葛西先輩は大笑いだ。


「それに俺にも彼女いるし、まぁ確かに天文部は男ばかりだけど女子もいるし、君が顔を出していれば大丈夫さ」
『あ、ついに彼女できたんですか』
「そうついに」


おめでとうございますと手を叩く。
恥ずかしそうに笑う先輩はとても嬉しそうだった。

それに反して精市くんは不機嫌になって、わたしを後ろから抱きしめた。


「部内でいちゃつくのはほどほどにね。嫉妬で突き飛ばされても知らないよ?」
「返り討ちにしてやりますよ」


だんだん不穏な空気になってきたぞ?

逃げ出したくとも逃げ出せない状況に足に鎖でも繋がれたように動けない。まぁ、もし猫のように身軽に走り出せても、この精市くんの腕からは逃げられない。
脱出不可な孤島の監獄よりも脱出は不可能だ。


「首輪をつけておくに越したことないよ。中学は女なんて〜って言ってた奴も飢えて飢えて仕方ないんだから」
『首輪!?精市くんにそんな趣向は……っ!』
「そうですね。名は馬鹿ですし、好物をチラつかせれば簡単な罠にも掛かりますし」


スズメを捕まえる棒切れと籠を使った安易な罠を手で表現した。
精市くんにも葛西先輩にも失礼なことを言われる筋合いはないのだけど、不本意ながら馬鹿である自覚はある。


「俺が部長じゃないから勝手なことは言えないけど、また入部届け持ってまたおいでよ」
「よろしくお願いしますね、葛西先輩」
『また来ます。あと彼女さんの顔も見せてください』
「部員が増えて嬉しいなぁ」


あ、はぐらかされた。