「やあやあ、幸村くん。姓ちゃんは一緒じゃないのかい?」
「お疲れ様です、葛西先輩。四六時中彼女と一緒じゃないですよ」
「だよね。俺の彼女と一緒にいるんだけどさ」
「行方わかってるじゃないですか」


美化委員の花壇の草むしりをしていれば、木の陰からひょこりと葛西先輩は顔を出した。
全然お茶目でもないです。

名を妹のように思っているのか、単にからかうことが好きなのか、よくくどい言い回しをしてくる。
若干鬱陶しいと思うので、先輩であっても少しだけ蔑ろにしてしまう。

名に引っ付いて天文部に入部したので、宇宙の神秘を語られてもよくわからない。どちらかといえば、名の口から語られる神話の方が好きだ。


「幸村くんの趣味って何かな」
「は?テニスとガーデニングですね」
「そうかそうか。それは姓ちゃんは知ってるのかな?」
「当たり前ですよ」


腕を組んだ葛西先輩はうんうんと頷いた。なんだこいつ。


言わずもがなテニスをしていることは知っている。実力は強いと漠然にわかっていると思う。
ガーデニングも知っている。この春に名と一緒に種と苗を買って花壇に植えた。順調にすくすくと育って、夏には満開になるだろう。入院中に全て枯らしてしまったから数ヶ月ぶりに花壇は花で埋まる。


「俺が知った口で語るのもおかしいけど、姓ちゃんは好きな人の好きを好きになるんだよ」
「はぁ」
「花を見せてみな。多分名前出てくるよ」
「元々知っていたではなく?」
「サクラだとか、バラだとかその程度なら前々から知ってると思うけど。雑草の一つ一つまでは知らないだろ?」


わかるわけないだろ。ある程度はわかるが。ハルジオンだとか、シロツメクサだとか。雑草として抜き取るのが勿体無いくらい可愛らしい花を咲かせるものはわかる。
今俺の右手にある雑草は、多分エノコログサ。ホトケノザ、スズメノカタビラ。
なんだこれ、ヒガンバナかな。


『精市くん。忌々しく雑草を見つめてどうしたの?』
「ああ、名」


俺の隣にいつの間にか名がしゃがみこんでいた。
葛西先輩はどっか行ってるし。あの人何しに来たんだ。


「名、この苗から何が咲くかわかる?」


まだ緑の葉っぱばかりの苗を名に見せる。
首を傾げてから、ニチニチソウかなと答えた。正解。


『花言葉はね、楽しい思い出だったかな』
「詳しいね」
『うん。精市くんが好きだから覚えた』


俺が花を好きだから覚えたの?俺のことが好きだから覚えたの?どっちとも取れる言葉。


『このくらいの間隔で植えるんだっけ?』


ザクザクとスコップで土を掘り返す。制服が土で汚れることも気にせず、ポットをひっくり返して一株収めた。


悔しいけど、葛西先輩の言葉は本当かもしれない。