会う約束、どう取り付けたらいいんだろう。
お手紙、しかないよね。
ブン太に言付けてしまえばいいんだろうけど、何というか味気ない。
書くぞと意気込んでみても中々筆が進まない。さて、どうしたものか。
柳生くんなら19日にお店に来てくれそうだけど、忘れられていたら、忙しかったら……。
『そうだ!』
正直、あまり得策じゃないかもしれない。だけどこれがわたしの考えつく一番の策だ。
「ほい、柳生」
「何ですか」
「名から」
丸井くんから手渡された小さな封筒に入ったメッセージカード。
差出人の名前を聞いて慌てて封を切った。何も焦る必要なんてないのに。
誕生日が来るより先に返事が来てしまうことに焦ってるのでしょうか。
自然消滅もつらいものがありますが、形のあるもので振られるのも嫌ですね。
《19日のお約束が何もできていないので、できればメールでやりとりしませんか?》
少しだけ右肩上がりの癖のあるメッセージとメールアドレスだけが書かれたカード。
私は携帯電話を取り出し、早速アドレス帳に新規で書き込んだ。
教室で携帯電話を弄ることは風紀委員としてほんの少しだけ憚られますが、致し方ない。
それに高等部は授業中に触ることを制限されるだけで、今の私は校則に触れているわけではない。中等部の癖で、つい。
嬉しくてつい早速メールを作成して送信しましたが、今は朝の8時半。
丸井くんから手紙を受け取ってすぐに作成したのがバレバレですね。恥ずかしい。
あっ、やばい。マナーモードにしてなかった。
ポケットにしまわれた携帯電話が着信した。慌ててマナーモードに設定して、メールを開く。
この時間、メルマガかな。
そう油断していたのでハッと息を飲む。
《おはようございます。丸井くんからお手紙お預かりしました。
私のアドレスも登録お願いします。
19日、私は予定がありませんが、姓さんはいかがですか?》
件名に柳生比呂士と書かれ、送られてきたメール。
わたしは携帯電話を胸に抱きしめる。
ありがとうブン太。こんなに朝早くに渡してくれて!朝練に走って飛び出すブン太を引き留めるだけの価値があった。
アドレス帳のや行に追加された彼のアドレス。
わたしはそれに登録した旨と、19日にわたしも予定がないことを書いて返信した。
放課後まで携帯電話の使用は校則で禁止されているので、電源を切ってカバンにしまいこんだ。
「柳生が携帯を頻繁に見てるなんて珍しいね」
「……そうでしょうか?」
「幸村くん、女絡み」
「ああ、あの時の」
幸村くんも事情を知っているのでクスクスと楽しげに笑った。丸井くんも余計なことを言わないでください。
そわそわしていることは自分が一番わかっているんです。
昼休みになっても返ってこない姓さんからのメール。
デートのお誘いのメールなので、早く返事がほしいわけではないですが、都合が悪ければ、一言をいただくために伺うのですが。
最悪、無視されているのでしょうか。
私の恋はここで打ち止めなのでしょうか。そうだとしたら想いは告げました。後悔はありません。
後悔などはありません。きっと。
「柳生、名の学校、携帯いじれないから放課後まで待った方がいいぜ?」
「早く仰ってください」
幸村くんが珍しく声を上げて笑った。