「お待たせしました」
『い、いえ……』


約束の19日が来てしまった。
荷物があるから家まで迎えに来てくれた柳生さん。


制服姿しか知らなかったけど、カジュアルなのにきっちりしている柳生さんらしい格好がとても眩しい。
直視できなくて、視線が自然と下がる。


きっとそんな格好してくるだろうとブン太とジャッカルの予想で、紺色に白い子花柄のワンピースに白いカーディガンを羽織って、履き慣れたヒールの低いショートブーツ履いてみた。


「素敵な格好ですね。私ももう少しフォーマルな服装にすればよかったですね」
『じゅ、充分です!わたしこそもう少し大人っぽくすればよかったかも』


緊張して、忙しなく手が動く。髪を耳にかけてみたり、スカートの裾をいじってみたり。
チラリと柳生さんを見れば、ニコニコと笑顔でわたしを見ていて、また視線を落とした。


「行きましょうか」


差し出された柳生さんの手。反対の手にはお弁当を入れた手提げが握られている。
極々自然に差し出された手に彼の紳士たる所以が伺える。

わたしはそっと手を重ねる。大きくてマメのある温かい手に包まれ、心臓がドクドクとうるさい。


「丸井くんからあなたのお料理は美味しいとお聞きしました」
『ブン太やジャッカルのお父さんには敵わないかな』
「お二人とも食に関しては拘りがありますからね。それにしても、手料理は嬉しいものですよ」


そんな過度な期待をされても、口に合わなかったら困る!
一応、お母さんに味付けの確認もしてもらったし、できるだけ綺麗に盛ったし、出来合いのものを使わないようにした。
おにぎりだって、綺麗に洗った手に塩を擦り込んで握った。他人の握ったおにぎり、苦手じゃなかったらいいけど。


電車に揺られたどり着いた自然公園。小学生のときは遠足やレクリエーションでよく来ていた。


『金木犀のいい匂い』
「紅葉はしていなくても、秋を感じますね」


空を見上げれば薄く霞んだ空にうろこ雲が浮かんでいた。
最近急に朝は冷え込んで、暖かい日中も冷たい風が吹くようになってきた。
季節の変わり目をゆっくりと感じることができるのは柳生さんといるからだろうか。


『柳生さんは読書の秋?』
「そうですね。姓さんは、食欲の秋ですか?」
『そうだねぇ。お芋も栗もたくさん出回ってお菓子が作りやすい!』
「じゃあ、今日のも?」
『はい!栗どら焼きです!というか、さっきから柳生さん、食べ物の話ばかりですね?』


楽しみなんですよ、仕方がないじゃないですか。とは言えず、はにかんで誤魔化した。
どちらが食欲の秋なんでしょうか。


ずっと繋がれた姓さんの小さな手。彼女の手のひらも指の付け根や指先の皮膚が硬くなっていて、努力の跡が見受けられます。
きっと、姓さんのお料理は美味しいです。少なからず、私のために作ってくれているのだから。


隣を歩く小さな人は私を見て恥ずかしそうに笑っている。