『美味しいですか?』
柳生さんは何も言わずににこりと笑った。安堵したらいいのかわからないぞ?
自然公園を歩きながら、池のほとりに並んだベンチの一つに腰掛け、お弁当を広げた。
二段の重箱におかずとおにぎりを詰めてきた。ブン太から柳生さんは意外と食べるという情報を貰っていたから、2人にしたら少し多いかもと思うくらい。
「美味しいですよ。優しい味がします」
『よかった』
ほっと胸をなでおろす。
柳生さんは本当によく食べる方でお弁当がどんどんと空になっていく。
遠慮するかと思えば容赦ないので、可笑しくて箸を止めてしまった。
急に笑い出したわたしに柳生さんも食べるのを止めて不思議そうにわたしの顔を覗き込んだ。
その時にレンズの向こうの切れ長の目が見えた。
綺麗な瞳だな。
何でもないと言えば腑に落ちないと言う顔で、柳生さんはまたおにぎりを頬張った。
空っぽになった重箱を見て思わず頬が緩む。
「ごちそうさまでした」
『お粗末様でした。それと』
わたしは自分のカバンからラッピングされた小箱を取り出し、柳生さんに差し出した。
『まだ言えてないので、誕生日おめでとう、柳生さん』
満面の笑みと共に贈られたプレゼント。
そんな、貰いすぎです。自分が与えたものはほんの僅かだと言うのに。
プレゼントの封を切ると、中にはシンプルな色ガラスがひとつだけ埋め込まれたネクタイピンだった。
沢山悩んでこれを手に取ったのでしょう。
『柳生さん』
嬉しそうにネクタイピンを眺める柳生さんに向き合う。
言わなきゃ、意を決して。
真っ白になりかけた頭で、緊張で薄っすらとうなじに汗が膜を張る。
『柳生さんのこともっと知りたいです。まだ欲張って彼女なんて言わないので、その』
俯いて、だんだん声が唇から溢れることを拒む。
「名さん」
『はい』
胸元で握りしめていた両手に柳生さんの大きな手が重なった。
「欲張っていいですよ。私はあなたの気持ちに応えられます。もう伝えましたよね、私は」
そう、そうだよ。柳生さんはわたしに好きと伝えてくれたんだ。夏のわたしの誕生日に。
顔を上げれば、目を細め慈愛の柔らかな笑顔でわたしを真っ直ぐ見つめていた。
逃げない、逃げないぞ。
『好き、です』
思い出すたびににやけてしまう顔をなんとか真顔に保つ。そんなことをしたって仁王くんにはどうしてもバレバレで、ニマニマと笑っている。
「おめでとさん」
「どちらの意味でですか」
「両方じゃ。ほれ、さっさと妹さんと俺を認めんしゃい」
「あなたと身内になるのはご勘弁願います」
「和菓子ちゃんとは身内なるのにか」
私が怒り出すより先に、コートへ走っていった仁王くん。あとでその背中にレーザービームをお見舞いしますよ。
未だに制服姿の私の胸部には名さんからいただいたネクタイピンが光っている。
よし、今日も頑張りましょう!