「あれ?丸井仁王、名知らない?」
「ん」


お昼休み。名とご飯を食べようと彼女の教室に訪れたが、名の席に仁王が座り、その前の丸井と弁当を広げていた。

いつもなら教室で食べているのにおかしいな。
昨日、被服室で作業してたし、そこで食べてたりするのかな。


キョロキョロと見回していれば、丸井が窓の外を指差した。
そこには花壇の近くのベンチに腰掛け、昼食のメロンパンをジッと見つめている名がいた。


丸井と仁王に見送られながら、花壇に小走りで向かう。


「こんなところにいたの」
『幸村』


まだ手をつけていないメロンパンから視線を外した名。なんだか顔色が良くない。

彼女の隣に腰を下ろし、額に手を当てる。熱はない。けど、肌が少し荒れてる。真昼の日差しで目の下に影ができてるのかと思えばクマだ。
寝不足かな。


「膝、貸そうか?」
『……うん』


名からありえない返事が返ってきて驚いた。冗談のつもりだったのに。

ころんと倒れこんできた名の頭は光を吸って暖かい。
頭の収まりの良い位置を見つけて、名は目を伏せた。

俺はとりあえず羽織っていたブレザーを名にかけた。


しばらくすると、スースーと寝息をたてて眠り始めた。
授業中に眠らなかったのかな。
赤也も相当寝つきがいいけど、名も中々だな。


うーん、何というかこの状態、あまりよろしくない。

無防備にかわいい寝顔を晒している。写真で見たことあるけど。しかも、横顔じゃなくて、腕で顔も隠れているわけでもなくて、仰向け。
本当によろしくない。とりあえず写真撮っておこう。


「何で寝不足なんだろう」


眠っている名に俺の声が届くはずもなく、深い呼吸で胸が上下しているだけだ。


「寝不足の原因が俺だったら嬉しいな」


昨日キスした頬に触れる。やっぱり荒れている。
俺の指先がくすぐったいのか、頬が緩んで、笑っている。

やば、かわいい。永遠に見てられる。


「いつか唇にできると嬉しいんだけど、な!?」


頬を撫でた手で、薄く開かれた唇を指先で撫でれば、すぼめた唇に指先が吸われた。
何だっけ、赤ちゃんがしちゃう癖なんだよ。


えっ、これは無防備すぎるよ。俺どうしたらいいの!
襲っても文句言われる筋合いないよ。どう落とし前つけてくれるんだよ。


「なんじゃアレ」
「砂糖吐ける」


とりあえずお昼ごはん食べよう。こぼさず食べるくらい余裕だし。