顔がチリチリと焼ける感覚と眩しさに目を覚ました。
身体は固いベンチに投げ出してるけど、頭は一段高くて枕ほど柔らかくない。
まだ焦点の合わない目をこすっていくらか瞬きをした。
どうして幸村を見上げている?
『っああ!ごめん幸村!』
わたしは慌てて体を起こした。
固いベンチの上で寝返りをうたずに寝ていたため節々が痛くて背中を丸めた。
お腹には深緑のブレザーが乗っていて、多分これは幸村のものだろう。
『あ、授業』
「まだ大丈夫だよ。30分くらい寝てたかな?」
携帯電話で時間を確認すれば、まだ予鈴まで10分あった。30分しか寝ていない割にはかなり頭がスッキリしている。
ぐっと背中を伸ばせば、バキボキ音を立てた。
「かわいい寝顔だったよ、名ちゃん」
妙にねっとりとした声の幸村の顔が見られなくて、背を向けたままでいる。
ああ、このブレザーを返さなくちゃいけないのに。
あれ、そういえばなんで幸村に膝枕してもらってたんだろう。思い出せない。
「次は俺を膝枕してよ」
お腹に回った幸村の腕と、肩に顎が乗る。首筋に彼のウェーブした髪が触れる。
『嫌だよ』
「結構男のロマンなんだけど」
『ダメって言っても勝手に転がってくるでしょ』
「心外だな」
よりお腹に回った腕に力が入る。了承を得るまで離さないつもりか。
『でも、本当に弱ってる時ならいいよ』
とは言ったものの、幸村って案外強がりだから、その本当に弱ってる時は本音を隠してしまうんだろうな。
柳も言っていた。ムキになって、ヤケになって、何もかもを投げ捨ててしまいそうだって。
「今!今名に断られて凹んでるところ!」
『ダメ。もうチャイム鳴るし、わたしお昼ごはん食べてない』
幸村にブレザーを返して、紙袋に入ったままのメロンパンを頬張る。
「リスみたい」
昼休みが終わるまでに食べ切らなければならないために、いつもより大きく頬張る。
食べられる姿をあまり見られるのは好きではない。喋る事もできないから、顔だけは背けた。
「美味しそうだね。どこのパン屋さんの?」
『朝焼いてきた』
「寝不足なのに」
『寝不足なのに』
眠れたと思えば、すぐ目が覚めてしまった上に、再び眠れそうにもなかったからパンをこねていた。
『食べる?』
ちぎって幸村に差し出す。
「ん。美味しい」
結構大きめにちぎったけど、一口で口に収まった。
意外と口が大きいんだ。男らしいな。
「まーたあいつらいちゃついとる」
「付き合ってねぇって事実がおかしいよな」
幸村がもっと欲しいと袖を引っ張るから、手提げから別の袋を取り出す。
『まだあるよ』
「ほんとだ。よく丸井に食べられなかったね」
『ね。これは幸村の分』
「俺の?」
余ってる……わけではないけど、メロンパンを1つ、幸村に手渡した。
今日からしばらく、調理室も家庭科室も海原祭優先になるから使えない。いつものおやつだ。
また一口頬張ろうとしたら予鈴がなった。次の休み時間にでも食べればいいやと、袋にしまって立ち上がろうとすれば、幸村にまたベンチに引き戻された。
「あ、あいつらサボりかよ!」
「真田がなんて言うかのぉ」
「たるんどるか、破廉恥だろぃ」
「言えとるの」