「幸村部長!真田副部長!」
「赤也?」
「お前がなんでここに」
「いや、柳先輩が二人を見つけたら家庭科室に連れて来いって」


部室じゃなくて家庭科室?なんでまた赤也まで呼びつけて。
赤也は高等部の家庭科室の場所がわからないから、テニスコート付近で待っておけと蓮二からの指示の元、俺たちを待っていたらしい。

俺は別にカンの悪い人間ではない。なんとなくパーティでもしてくれるのだろうと察した。
プロになっていることは蓮二が予測済みだろうし、丸井がケーキでも焼いたりしてくれてるんだろうな。
去年のレギュラーメンバーだけのささやかなお祝い、楽しみだな。


「赤也、先に入りなよ」


家庭科室の前。中では今か今かと俺たちの登場を待ってることだろう。
状況が飲み込めていない赤也とその次に真田を家庭科室へ押し込む。


「えっ?は?」
「あー!なんで赤也なんだよ!」


耳が痛くなるくらいのクラッカーの音と、火薬のにおい。真田と赤也の頭には紙テープがひっついている。やっぱりね。


二人に続いて家庭科室に入ろうとした時、背中に温もりを感じた。お腹に回った手。爪の短い女の子の腕。この腕には見覚えがある。


「名?」
『こうしてやれって、みんなが言うから』


背中に顔を埋めているのか、篭った声が聞こえてきた。


「弦一郎、何か言ってやりたい気持ちはわかるが今は空気を読め」


複雑そうに顔を歪めた真田と、ニヤついたみんなと、相変わらず呆気に取られたままの赤也が俺を見ている。
早急に家庭科室の扉を閉め、名の腕を解いて向かい合う。
そっぽを向いた名の頬は濃いピンク色に染まっていた。


「どうせ抱きついてくれるなら正面がいいんだけど」


いつもの調子でそういえば、軽蔑を含んだ言葉が返ってくると思っていた。


『おめでとう、幸村』


俺の胸に顔を埋めた名。最近の予想外の行動に心臓が口から飛び出しそうになる。
いつも自分から抱きつきに行くのに、抱きつかれ抱きしめ返すことは滅多にない。
多分ケーキを丸井と一緒に作ったのだろう。名から香るバニラの香りにクラクラする。


「俺ばっかりドキドキして情けないなぁ」
『そんなことないよ』


抱きしめた手を緩め、名は俺を見上げた。上目遣いはズルいって!


『精市くん、優勝おめでとう』


あっ、無理だ。


『えっ、ちょっと幸村!?』
「あー、あいつらイチャつくのも大概にしろよぃ」
「……そう言うわけでもなさそうだぞ」
「キャパオーバーってところかの」
「は?」


柳と仁王が閉じられた扉に手をかけた。
入口の前には廊下に座り込んだ名とそいつに覆いかぶさった幸村くんの姿があった。

なんとまあお熱いことと思ったけど、こりゃ様子がおかしいな。
真田とジャッカルに肩を担がれた幸村くんの顔は赤くて逆上せていた。そのまま保健室まで連れて行かれた。


「姓今度は何をしたんだ」
『抱きしめただけなんだけど』
「え、この人何者。それで、部長の心配しなくていいんスか?」
「大丈夫じゃろ。頭の方は心配じゃがの」
「溺愛と言うものは恐ろしいものですね」
「なんかこなれてる感」


赤也と名は初対面だもんな。幸村くんの部活の姿や、中学の時の断片しか知らないだろうし。


「アイツね、幸村くんのお嫁さん」
「マジっすか!?」


これだけ伝えとこう。名は保健室に行っちゃってこの場にいないから訂正されないし。