『では、わたしはこれで』
「待ちんしゃい。お前さんからプレゼントを貰っとらん」


仁王先輩に腕を掴まれる。

プレゼントを貰ってないとか言われても、仁王先輩と会ったのは数回でお兄ちゃんの友達としか認識していない。
そんな人に誕生日プレゼントを寄越せなんて言われても持ち合わせてないし、用意する義理もない。

それにキス……あぁ、あれは丸井先輩からのプレゼントになるのか。


『何か欲しいものはありますか?』
「ほうじゃのぅ……」


もういっそのこと後からでも渡してあげよう。そう思い、わたしは仁王先輩に尋ねた。

彼は顎に手を当て考える。
いざ欲しいものを尋ねられると直ぐには思い付かないものだ。日常的にあれが欲しいこれが欲しいと思ってるのに、だ。

仁王先輩は何か思い付いたのか、わたしをちらりと見た後ニヤリと笑った。
また肉体的な物を求めているのだろうか。
ならばわたしに要求せずに、別の、そう仁王先輩に好意を寄せている女生徒の方から頂けば良いと思う。


「そしたら、名ちゃんの時間をくれんか」


時間?与えられるものならわたしが貰いたいくらいのものだ。
というのは冗談で、どういった比喩表現なのかわかる。


『何をして欲しいのですか?』
「クリスマスにデートしてくれんかの」
『デートですか』
「おう。デートじゃ」


デートは恋人とする事に限ったことではないけれど、よりにもよって《クリスマス》に《兄の友人》と《デート》なんて好んでするだろうか。
でも、それが仁王先輩の要求するプレゼントなら頷くべきだろうか。


仁王先輩はおもむろに後ろポケットから財布を取り出し、中から一枚のチケットをわたしに見せた。


「姉貴がこんなクリスマス直前にフラれてしもうての、バイキングのチケットが余っとるんじゃ。カップル限定で友達とも行けんしって押し付けおったんじゃ。どうじゃ、行かんか?」
『お金は』
「懸賞じゃき、気にしなさんな」


仁王先輩は寒いのか鼻をこすった。北風吹き荒ぶ屋上だ。こんな場所早く移動しよう。彼は思うよりも薄着だ。


あいにくクリスマスは暇を持て余している。


『わかりました。でも、仁王先輩に彼女や他に行きたい女性はいらっしゃらないのですか?』


カップル限定とは言ったって、夫婦が許されるならば、黙っていれば姉弟だって許されるだろう。
たまたま話を持ちかけられたのがわたしであって、クラスメイトの女子だっていいし、恋人のいる友人に渡してしまうこともアリだろう。
何故、わたし。

仁王先輩は何も言わずにチケットを財布に戻し、すれ違いざまにわたしの肩を叩いた。


「おお、そうじゃ。兄貴には黙っとってくれよ」
『聞かれることはないと思いますが、何故です』
「お小言がうるさそうじゃから」


そう言って先に屋上を出ていってしまった。

うまくはぐらかされてしまったが、追求するまでもない。
下手に同級生を誘えば恋人の疑惑が持ち上がるかもしれない。友達の妹ならば、案外その気がなくても噂は立たないのかも。