困ったな。デートに着ていく服がないぞ。

去年のわたしは小学生だったわけだし、夏こそそれなりにお姉さんのような服を買ってもらったりしたけど、冬服は全くない。
仁王先輩の趣味とか知らないけど、手持ちの服はいささか子供っぽい。もう部屋着送りだ。


でも今更、お母さんにねだって買いに行くにもなんだか恥ずかしい。
それにお兄ちゃんが家にいない時に相談しないと面倒なことになりそう。

服を貸してくれそうな知り合いのお姉さんも居ないし、買うにもお小遣いが。
うーん。


「だったら、お母さんが昔着ていたジャンパースカートがあるわよ」


恥を忍んで、夕飯の準備をするお母さんを手伝いながら相談してみることにした。
都合のいいことに、お兄ちゃんは部活に顔を出しているのか帰ってきていない。


トレンドと言うものは20年スパンで戻ってくるらしい。
お母さんが年頃だった服が丁度今の流行りらしく、クローゼットの中に大切にそのジャンパースカートは仕舞われていた。


「お父さんとデートの時に着て行ったのよ。名が着てくれるなら嬉しいわ」


シミひとつないスカートは、思い出と共に大切に保管していたのだろう。その服を見つめるお母さんは随分若く見えた。


「で、どんな人と出掛けるのかしら?」
『ほら、夏の大会でお兄ちゃんとダブルス組んでた人』
「あの銀髪くんか。仁王くんだっけ?随分なイケメンを捕まえたわね」


お母さんは仁王先輩の顔をしっかり覚えているのか、ニマニマと笑っている。まぁ、お兄ちゃんと顔も似てるからね。


デートの日はお化粧もして、髪もちょっと巻いてみようと、お母さんの方が張り切っている。
たまたま誘われて、ご飯に行くだけなのに。

コーディネートもお母さんに頼りきりだ。
白のニットを中に着ましょう。履き慣れたブーツにしなさい。黒のダッフルコートがあったよね。お母さんのネックレスもしていきなさい。

お母さんはずっとわたしを着せ替え人形にしてみたかったらしく、次から次へとアイテムが出てくる。

ベレー帽も被りなさい。葡萄のモチーフのブローチもあったはず。手袋はスウェードを貸してあげる。


なんだかデートに行く前に疲れてしまっている。
雑誌に載っているモデルの女の子たちはこれを自主的にやっているのだからすごいと思う。
わたしは水泳でいかにいい記録を出すかだけで精一杯だ。


「おや、名。おめかししてどこへ?」
『友達と遊んでくる』


仁王先輩を友達と言っていいものか。でも、それ以外に誤魔化しようがない。


「クリスマスですしね。楽しんでいらっしゃい」
『うん。いってきます』


あんまり遅くならないようにしよ。
眼鏡の向こうのお兄ちゃんの目が、胸の内を探るように凝らされた。