『お待たせしました』
家族と行き慣れた繁華街でも、一人で来れば電車も待ち合わせ場所までの道のりも全て異様に思えて、予定していた時間よりほんの少しだけ遅れてしまった。
仁王先輩は人混みの中でも目立つ。待ち合わせ場所の電飾の施された桜の樹の下のベンチに、寒空の下、彼は座っていた。
携帯電話を持っていないわたしは、遅れる旨も連絡できなければ、どこか移動して待ってもらうこともできない。
仁王先輩を視界に入ると小走りで彼の元へ向かった。
「柳生の妹はちとルーズか?」
『ごめんなさい。迷いました』
「そんなことじゃろうと思とった。来てくれただけで上等じゃ」
紺色のダッフルコート着て、その下から伸びるスラリと長い脚はデニムのパンツを履いているので、それほどお高いバイキングではないのだろう。
二人並んで歩き出す。相変わらずの猫背の仁王先輩と無言のまま隣を歩くが、あまり気まずいとは思わない。
彼の人とあまり関わりたくないと自然と引かれた距離感のせいなのか。それとも、お兄ちゃんを鎹にして出会ってないせいたのか。
「随分おめかしして来たんじゃな。よぉ似おとる」
『ありがとうございます。仁王先輩がカッコいいので、それなりの格好をしました』
猫のように目を丸くした仁王先輩がわたしの顔をのぞきこんだ。
「どんな顔しとるかと思えば、顔色ひとつ変えんの」
わたしが首を傾げれば、この話は終わりと言わんばかりにまた前を向いて歩き出した。
それから数分もしないうちに目的に着いた。
クリスマスということで店内は混み合っているみたいで、入店待ちの列もできていた。
「ほれ、名ちゃんこっち」
『予約されてたんですか?』
「まぁな」
繁忙を極めるとわかっているのに予約をよく受け付けてくれたなぁ。入店待ちの列を尻目に、予約席の2人掛けのテーブルに通される。
『仁王先輩、お肉ばっかり』
「名ちゃんかて、炭水化物ばっかじゃ」
お互い偏食家なのか野菜っ気が一切ない。
仁王先輩のプレートにはローストビーフやフライドチキンが乗っていて、わたしのプレートにはケーキやパスタが乗っている。
お互い好きなものを自由に、他人から何も言われずに食べられるなんて、こんなに気が楽なことはない。
お兄ちゃんの話から始まり、学校やら部活やら、好きな物事やら仁王先輩との会話が弾み、退店時間にはお腹も心も満たされた。
仁王先輩は見た目は不良で飄々として掴めぬ雲のような人だけど、話しやすく意外とよく笑う人だ。
わたしはこんなに話すタイプだっけ?と思うくらい話を引き出すのも上手だ。お兄ちゃんもこうやって真逆に思える仁王先輩と仲良くなったのだろう。
まだ陽も高く穏やかな冬の日。街の雑踏は避けて、どこか静かな場所にでも移動しようという提案で、神社に行き着いた。
閑静なそこは、まもなくやってくる元旦には賑わいを見せ、日向ぼっこをする猫や鳩はどこかに追いやられるのだろう。
「もう来週は正月ぜよ」
『早いですよね、一年。わたしが二年生だって。先輩ですよ』
「俺らは卒業じゃけどな」
そうか、仁王先輩もお兄ちゃんも三年生か。水泳部の先輩も引退していった。
小学校の頃はあまり上の学年と関わりがなかった。たった半年程度の交流だったけど、思い出が沢山できたなぁ。
『寂しいですね』
「そのまま高校に上がるって言ってもな」
冷たい風と乾いた落ち葉が擦れる音が余計に寂しさを煽った。