『今日は楽しかったです』


仁王先輩に最寄り駅まで送ってもらった。空はもう赤と群青が入り混じっている。


「俺も楽しかったナリ」


改札はまだ潜らない。人の邪魔にならないように片隅に避けてまだ渡すものがあるから。

わたしはカバンから包みを取り出す。誕生日とクリスマスのプレゼントが兼用になってしまったけど、深い緑の包みに金のリボンを結んだそれ。

仁王先輩はプレゼントとわたしの顔を交互に見る。
彼はフッと笑い、彼もコートのポケットからピンクの箱にシルバーのリボンが結ばれたものを取り出した。
それを交換し合う。お互いに用意していたんだね。


「開けてもええか?」
『どうぞ。わたしも見ていいですか?』


二人ともリボンを解いて中を見る。
仁王先輩には濃い青のマフラー。わたしの小箱には金色の星のブレスレットが入っていた。


「センスがいいでしょう。私の妹は」
『えっ!』
「ピヨ」


二人で声のする方を向けば、眼鏡を手で押し上げて立つお兄ちゃんの姿があった。
怒ってる。多分。お兄ちゃんに腕を引っ張られ背中に隠される。


「仁王君、何もしてないでしょうね」
「しとらん。飯に行って、お話しただけじゃ」


二人が睨み合いを止めることができず、通りすがりの人が横目で好奇の目を向けられる。
どう見たって修羅場だよね。
お兄ちゃんのコートの袖を引っ張って、どうにかこの場を離れよう。


「名、何もされていませんね?」
『されてない!』
「あなたは出る前に嘘を吐いていましたが?」
『うっ……』


仁王先輩を睨んでいた目がわたしに向けられる。
確かにそうだけど。言い返せずに口を噤む。

お兄ちゃんは溜息を吐いて、わたしの頭に手を置いた。


「次はきちんと仁王君と出かけると言うんですよ」
「柳生、ちと過保護すぎんか?」
「妹は可愛いものですよ。それに仁王君は信用なりません」


とりあえずお兄ちゃんはもう怒ってない見たい。ほっと胸を撫で下ろす。
仁王先輩は唇を尖らせる、腑に落ちない様子だ。


帰ろうと背中をお兄ちゃんに叩かれる。


「名ちゃん、また遊ぼうな。お兄ちゃんに秘密で」
「仁王君」
『はい。ないしょで』
「名まで!」


お兄ちゃんは頭を抱え、わたしと仁王先輩は呑気に手を振り合う。
改札を出て、振り返れば仁王先輩の姿はなかった。


さらに空は暮れ、電飾でキラキラと光る住宅街をお兄ちゃんと歩く。ほんの少しだけ、仁王先輩とだったらいいのにと考えてしまう。


『お兄ちゃん、初詣はテニス部で行くの?』
「まぁ、そんな話が出てますね」
『ついて行っていい?』
「仁王君ですか?あの寒がりが出てきますかね」


仁王先輩、寒がりなんだ。マフラーをプレゼントして正解だったかも。


「名、本当に仁王君に何もされてませんね?」


わたしは首を縦に振る。そして、ふとほっぺにキスだけはしたなと思い出した。
黙っておこう。口をギュッと噤んだ。