四畳半一間。いつ頃建ったのだろう。
二階建ての風呂なし、台所トイレ共同の木造ボロアパート。家賃二万円。少し高い。各停しか止まらない駅から徒歩十分。コンビニも遠い。
うん、やっぱり高いや。
なんとも不便なこの部屋は俺の城だ。
厳密に言うと俺はこの部屋に住んでいない。日中の暇を潰すための、誰かを気にせず過ごせる唯一の空間。
電気もつけずに、黄色く色褪せた畳に寝転がる。い草の匂いと少しカビ臭い。自室ではありえないにおいだ。
天井からこのご時世珍しいソケットにはめただけの裸電球。LEDなら不釣り合いで面白かっただろうな。
濃く茶色に痩せた木の天井は長雨が続くと雨漏りするのか、ところどころにあるシミが怪談に出てくる亡霊を思い出させた。
家具のない四畳半は結構広い。持ち込んだものはイーゼルとスケッチブックと絵の具。
それらを無秩序に床に転がしてある。一時的にではなく、何日もこのまま。蹴り飛ばして、踏みかけて、ごちゃごちゃ。
こんなの普段の俺を知る誰かに見られたら、あまりのだらしなさに驚かれるだろうな。
開けっ放しの木枠とすりガラスの窓から、春の終わりを告げた湿気の含んだ生ぬるい風が陰った部屋に緩やかに吹き込む。適当にホームセンターで買ったカーテンが揺れた。
ねじ式の窓。初めは開け方がわからなかった。
念のためにつけられた南京錠の家の鍵。勿論監視カメラがあるはずもない。大阪万博前のセキュリティというものは。まぁ、盗まれるようなものなんてないのだけど。
鶯張りと言うには粗末な、軋んだ床を鳴らしながら隣の住人が部屋を出て行く気配がした。
隣の住人は売れない漫画家だ。彼の作品を知らないがここはトキワ荘ではないことは確かだ。
ここに住む人間は、吹き溜まりのように掃いてさえくれない、世界の隅で生きている。
これほど無駄で有意義な時間があるだろうか。大の字で寝転がった身体を起こして窓枠に腰掛ける。
ベランダもないこの部屋の窓の柵にプランターを引っ掛けて申し訳程度のガーデニングを始めた。
ホームセンターで安かったパンジー。花が散って売れ残った五十円の値をつけられたもの。目の前がコインパーキングのお陰で、意外と日当たりのいいここで生き生きと再び花を咲かせていた。
青くなった桜。
近くの銭湯の薪のにおいを背負った、吹き溜まりにも分け隔てなく吹き込む風。夏が来る。白むくらい眩しかった夏。蜃気楼だった夏。
「俺も十分に吹き溜まりの一人だなぁ」
手にした携帯電話で友人たちを呼び出す。また夏が始まる。
ラケットを振り回して小さな黄色い球を追いかけていたあの頃はもうハレーションの中だ。
もう俺の元に来る夏は眩しさはない。誰かの夏を目を細めて眺めるばかりだ。
「なんてね」
あの頃の青臭さはすっかり抜けてしまったけれど、まだ青春の真っ只中である。まだ夏は始まっていない。