すっかり頭の中は処理落ちしてしまって、ただただ呆然としている。
「きっかけは好きだったね。恋愛とかじゃなくて、この子とは良い人間関係が築けるなって。でも、姓と話す機会ってあまりなかったじゃないか。だからさ、思い切って行動に出てみたんだ」
『それがアレ』
「そう。アレ」
動揺で言葉が出てこなかった。
思い切った行動なら話しかけるだけでよかったんじゃないだろうか。クラスメイトなのに。
多分あの行動は幸村くんじゃなかったら、ビンタされて、職員室に飛び出される案件だと思う。
幸村くんじゃなくても変だけど、有無を言わさぬオーラが手を振りかざすこともできなかった。
その後の幸村くんのファンからの呼び出しに協力したことや、屋上で写真を撮られたことも、幸村くんがどうしたらいいのかわからなくての行動らしい。
でも、寝起きに頭を撫で回したことは無意識で夢の延長だと思っていたとのこと。
時折見せた幸村くんの真顔の正体。「俺の膝に姓が乗ってる!」って思うと、嬉しさにデレデレに頬が緩んでしまってあまりにも情けないがため、堪えるための真顔だったらしい。
そう語った幸村くんは恥ずかしそうに頬を掻き、そっぽを向いてしまった。ちょっとかわいい。
幸村くんの好きや愛してるが噛み砕けなくて塊のままで手のひらに乗っている。
もうそれは両手のひらから溢れそうだというのに、幸村くんは構わず、次から次へと感情を乗せていく。
『幸村くん、わたしはどうしたら』
身に受け入れることも、無下に落とすこともできない感情にとても困惑している。
受け入れれば、今のように、今以上の愛情を注がれ、きっといっぱいいっぱいになって泣き出してしまう気がする。
愛情は受け取れないからと返すことはできない。
バラバラと手のひらから無情に落としていけるほど、幸村くんとは他人ではない。
一口ずつ想いを今まで与えられていたのだ。味を知っている。だから捨てられない。
幸村くんはうーんと、悩んでしまった。
「一番は俺の彼女になってほしいな」
『か、彼女』
「無理にとは言わないし、いずれね」
『いずっ……わたしがいいんですか!?』
思わず上擦った声が公園に反響し、ジョギングや散歩中の人たちがくるりと振り向く。
わたしは口を手で押さえ、幸村くんはくすくすと笑った。
「自分を下げないでほしいな。俺が好きになった人。俺の彼女になってくれませんか?」
差し出された右手ととびきりの笑顔を浮かべた幸村くん。
夜の帳が下りて濃い青に染まる空を背に、白い街灯に照らされ、二人だけ世界が切り離された気がした。
おずおず差し出された手に手を重ねる。
「ありがとう、名」
重ねた手を引き寄せられ幸村くんの胸の中に沈んだ。また手からミルクティーが滑り落ちていった。
今にも絞め殺されてしまいそうなくらい強い力で抱きしめられ、嫌でも聞こえる彼の鼓動がとても早い。
緊張?それともわたしを抱きしめているから?
『というか、どさくさに紛れて名前で呼んだでしょ』
「えっ、ダメかい?」
『まだダメ。……わたしが恥ずかしいから』
幸村くんは突然飲みかけのミルクティーで自身の頭を殴った。
意味不明な行動と当然悶える幸村くんに困惑が隠せない。とりあえずハンカチだけ渡した。
「あんまり可愛いことを言わないで」
手で顔を覆った幸村くんの耳は真っ赤で、肩を震わせていた。
実感が湧かないなぁ。幸村くんが彼氏になってるって。わたしもそれなりに彼女らしくした方がいいのかな。
じっと見つめていたら幸村くんは眉をハの字に曲げて笑った。
「無理に彼女になろうとか思わなくていいからね。ほんの少し、俺は男友達ではないって思ってくれるだけでいいから」
うーん。難しいなぁ。