なんか幸村くん、機嫌悪くない?

不機嫌ですってオーラを纏い、空気を通じてどことなく教室がピリリとしていて、おしゃべりに花を咲かせる女子たちも遠巻きに様子を見ていた。


わたしも遠巻きに見てよう。って、隣の席やないかーい。

下手くそなノリツッコミを胸の中で繰り広げていても埒があかないので、いつも通りを装ってカバンを机の上に置いた。


「姓」
『おはよ、幸村くん。何?』


ぽんぽんと腿を手のひらで叩く幸村くん。
座れということか?指をさして首を傾げれば、首を縦に振った。マジか。

自ら座ることはまずない。幸村くんが勝手に乗せるから。
恥ずかしいし。幸村くんとは深い関係でもないし。
でもこの教室の空気がわたしの行動ひとつで変わるのならば、致し方無し。


『お邪魔します』


わたしはそっと幸村くんの膝の上に腰を下ろした。
浅く座ってしまって落ち着かない。幸村くんも同じだったらしく、わたしの腰を引っ張り、深く座らされた。

気持ち、張り詰めていた空気が緩んだ気がする。


「姓、何か失くなってたり、妙に視線を感じたりしないかい?」


わたしにだけ聞こえるくらいの囁きに
首を横に振る。心当たりはない。でも、今の方が視線を感じるのは確か。


幸村くんは胸ポケットから四つ折りにされたハガキサイズほどの紙を取り出し、わたしの手の中に置いた。


姓名へ
本日の放課後、屋上で待つ


紙を開けば端的なメッセージ。今時、古風でベタなことをやる人もいるもんだ。

これはいわゆる呼び出しと言うものではないだろうか。
幸村くんを始めとしたテニス部や各運動部の部長に深く関わるとイジメが起こる。
お付き合いはもちろん、委員会でちょっとでも深く関わるようになれば、次の日には忠告が入る。

言わずもがな、校内で最も人気のある男子の幸村くん。彼の膝に女子が座っていたら気に入らないだろう。
マンモス校が故に様々な人がいて、こんな少女漫画の悪役もいるのだ。びっくりする。


幸村くん本人は猫を膝に乗せる程度でわたしに触れているなんて彼女たちは知りもしないだろうけど。


「朝、姓の下駄箱に入れようとした女子が落としていった」


多分、友達でも知り合いでもない誰かなんだろうな。
紙を四つ折りに戻し、幸村くんの机に置いた。


「俺が行ってやろうと思うんだけど、どうだい?」
『災難だね……』


わたしを呼び出したつもりで幸村くんが居たら、ショックだろうな。


幸村くんは部活仲間以外とはあまり関わりあわない。休み時間は一人でいるし、最低限の会話しかしない。
下手に女子に声をかければ勘違いされかねないし、その子がイジメられるかもしれないし。

幸村くんの優しさなのか、大ごとになれば巻き込まれる可能性があるからなのか、普段興味を示さない幸村くんが妙に気にしている。


『幸村くんがわたし以外を膝に乗せれば解決しそうだけどねぇ』
「俺の膝は安くない」
『無賃乗車なので、降りますね』


それを聞いて幸村くんはわたしの上半身が折れる前に、わたしの鎖骨あたりに手を添えた。立てない。
乗り越し精算しろってことか。


「どんな子がいるかだけ見てみたいから、一度行きたいんだよね」
『わたしはエサですか』
「罠には囮が必要だからね」


貼り付けたような笑顔の幸村くんは必ず実行するのだろうな。

わたしの下駄箱に呼び出し状を入れ忘れたから、今日の呼び出しは流れていそうな気もするのだけど。
帰りに見たら、改めて入れられていたら健気で可愛く思えるだろうか。

それにしたって、理不尽に文句を言われるのか。今日の星座占いは12位だったのだろうか。