じゃあ俺は給水塔から見てるから。そう言って鉄パイプのはしごを登った幸村くんの姿はわたしからは見えない。

呼び出した割に本人たちは中々現れず。わたしは花壇の前のベンチに腰掛け、差出人を待つことにした。

幸村くんに手紙を拾われたことによって来ないことを決めたのかもしれないし、呼び出すだけ呼び出して来ないだけかもしれない。
場所はここで合ってると思う。流石に違う校舎じゃないでしょ。


「あー、いるじゃん。えらーい」


重い音を立てて開かれた扉から、見るからに強気そうな女子たちが現れた。
これがいわゆるファンクラブの元締めというやつか。クラスも名前もわからないや。


給水塔からひょこりと幸村くんの頭が見えた。なんだ、寝転んでたのか。


「あんた何様のつもり?幸村くんは遠くから見つめるだけってルール知らないの?」
『知らない』
「あっそ。今知ったからやめてくれない?」


幸村くんの与り知らないところでこんなルールができていたんだなぁ。それだけなら平和なはずなのに、ルールを知らない子に後出しで教えて引き離すってズルい話だな。
グループでも何でもないのに、そのルールを強要されるのは生きづらいというか、幸村くんを神聖化しすぎているというか。


『隣の席だから最低限の関わりしか持たないようにするよ』


幸村くんの膝の上に座っているのは、彼のせいであると言っても彼女たちは信じてくれないだろう。


何にせよ、彼女たちが口で解決するタイプでよかった。もし感情に任せて手を上げられていたならば太刀打ちできなかった。
手が上がったところで、幸村くんという第三者が見ているのだからわたしばかり悪にされることはないだろうけど。


「極力ね……。次、膝の上に乗ったらタダじゃおかないから」


故意で乗ってるわけじゃないのに。


「さっきから聞いてればさ、君たちは勝手すぎないかい?」


給水塔から華麗に飛び降りた幸村くんがゆっくりと近づいてきた。
ファンクラブが一歩退き、幸村くんは何故かわたしのとなりに腰を下ろした。


「君たちがルールを持って俺に近づかないのはとてもいい判断だ。だけど、俺が築いた関係には口出ししないでくれる?」
「幸村くんも迷惑だよね、膝の上に座ってくる子」


迷惑してるのはわたしの方なんですけど。


「俺が好きでしてることだよ。姓は俺のものだからね」
『幸村くん……』


わたしの手を取りにっこりと微笑む幸村くんに鳥肌が立った。
どうしよう。ファンクラブを巻き込んで何かカミングアウトしようとしてない?
わたしは幸村くんの何かに、友達以上になるつもりはないのだけど。


「君たちは俺をいつまでも見ていればいいさ。だけど、嫉妬はするな。お門違い。いいね?」
「はい……」


汐らしくなったファンクラブの女子たちはすごすごと屋上を去った。

解決したのか?
彼女たちもルールがなければ近づけただろうし、あるからこそ何事もなく幸村くんを見てこれたのだろう。


「姓」
『ありがとうとは言わないよ。実害はないから』
「芽は摘んだからね。だけど草木は根深いよ」


それはまた芽が出てくるということなのか。例えが悪いけど、雑草は永遠に生えてくるからね。
そもそも、幸村くんが関わらなければわたしの畑に雑草の種は蒔かれないはずなんだけれど。


「君は手折らせないから、危険を感じたら俺に知らせるんだ。いいね?」
『知らせるも何も手段が』
「じゃあ携帯出す。異変に気付いたらメールでも入れてくれればそれでいい」


手から取られた携帯電話に幸村くんは手際よくアドレスを打ち込み、幸村くんの携帯電話にわたしのアドレスが登録された。


「いい子」


幸村くんの大きな手がわたしの頭を撫で回す。
幸村くん、わたしは犬じゃないです。