なんとなく気分がスッキリしないので、屋上に出て風に当たれば気分も晴れるだろうと来てみた。
雲ひとつない快晴。ぐっと体を伸ばせばそれだけで少し気分が紛れた気がする。
あれ?花壇を見ているのは幸村くんじゃないか。
鼻歌を歌いながら水を撒いていて、随分ご機嫌なようだ。
水を差す気もないので、見なかったことにしよう。水遣りだけに。
「姓」
幸村くんと反対側に歩き出そうとした時に柔らかなアルトボイスが後ろから聞こえてきた。
うへー、見つかってた。
声をかけて来たってことは用は無くとも、無視はするなってことかな。
幸村くんの方へ身体を向けた。
『委員会?』
「そうだけど、ほぼ趣味」
『ご機嫌だね』
「うん」
雫を花びらや葉に乗せて、太陽の光を浴びてキラキラ輝く花を見つめる。綺麗だなぁ。シャワーの水は虹を作っていた。
よく手入れされてるんだなぁ。どの花も大きく育ってる。
この花かな。いい匂いがする。
一輪の花に鼻を寄せる。この花だ。甘い匂いがする。
「ふっ」
『今、写真』
幸村くんは携帯の画面をわたしに向けた。そこには花に鼻を寄せる姿が写っていて、何とも間抜け面だ。
『やだ、消して』
「せっかく撮ったのに」
『残しておく意味ないじゃん』
幸村くんは何も言わずに携帯電話をズボンのポケットに入れた。消さないの意思表示ですか。
携帯電話なんて奪ってどうこうできる代物じゃないし、ズボンのポケットに入ってるものを取れる勇気もない。
逆に誰に見られるものでもない。うーん、でもわたしの写真が入っていることがなんだか変な気がする。
『やっぱ消して』
知らんぷりで水遣りを再開した幸村くん。
何度声をかけても、ベストの裾を引っ張ってもポケットに入った携帯電話を手に取ることはない。
「俺の裸を見た見物料」
『おかしいってば』
「お互い減るものじゃないだろ?」
ホースを巻き取りながら歩く幸村くんの後ろをついて歩く。
確かに幸村くんの裸は不可抗力で見ちゃったけど、わたしの間抜け面の写真を撮ったり持ってる理由にはならないから!
それを脅しの材料にするつもりなの。いやでも、わたしのその写真を何かしらにばら撒いても何の価値にもならないし。
逆なら大いに価値はあるのだけど。裸を見られたから盗撮してばら撒くみたいな大それたことはしないけど。寧ろ、わたしがやりすぎと咎められるわ。
「そんなに嫌?」
『嫌だよ。勝手に撮られて』
もう一度画像を見せて、手を伸ばせば削除できる距離。
「じゃあ、撮っていいかい?」
伸ばした手は幸村くんに掴まれた。
『それも変』
無許可で撮る撮らないの問題じゃなくて。なんでわたしの写真にこだわるかな。
恨めしく彼を睨んでいたら、幸村くんは溜息をついて、携帯電話を差し出した。
「いいよ、消して」
わたしはそれを受け取り、削除のボタンを押した。
『……パスワード』
「そう上手くはいかないよ」
幸村くんはわたしの手から携帯電話を抜き取り、屋上を出て行ってしまった。
結局消してくれなかったし。また恨めしく幸村くんが出て行った扉を睨んだ。