「わっ!」
『ひょえ!』
「ふふ、驚き過ぎだよ。俺もびっくりしちゃった」


帰り道、幸村くんに後ろから両肩に手を置かれ大袈裟に驚いてしまった。
幸村くんも胸に手を当てて、跳ねる心臓を押さえている。

夕方の住宅街。道に人がいなくて恥ずかしい思いをしなくてよかった。


『部活は?』
「ミーティングだけ。姓はまた委員会?」
『ううん。図書委員の子と話してた』


何気なく幸村くんと並んで歩いているけど、こっちの方なのかな?


「姓、次の角を曲がる。カーブミラーで後ろを見てほしいんだ」
『どうして?』
「ちょっと青いスポーツバッグの男子を見て欲しくてね」


よくわからないけど、幸村くんに言われるまま、駅までの道から外れるけど角を曲がった。
そして、言われる通りに後ろを見て、カーブミラーを確認する。

顔の知らない男子が歩いていたけど、何か変とは思わない。
同じ立海生だし、駅までだし、途中まで同じ道かも知れないし。


知らない人と伝えれば、幸村くんの顔が曇り、後ろを睨みつけていた。


「あいつ、姓が学校を出る前から後ろをついてきてる」
『別に駅に……』
「ほら、曲がってきた。この先何もないのに」


幸村くんはわたしの肩に手を回して少し歩みを早めた。
本当にわたしを追いかけて来てる?地元の人ならこの先に家があるかも知れないのに。

力のこもった手のひら。幸村くんはどうしてそんなに焦ってるの?


「家まで送る」
『え、悪いよ』
「もしもがあったら俺は後悔する。自己満足のために付き合って」


幸村くんに導かれるまま歩き慣れない道を進む。幸村くんは学校近くに土地勘があるのだろうか。


「いつも一人で帰ってるの?」
『うん。駅まで真っ直ぐだし』


10分ぐらいのほんの少しの距離。その間で後ろに人がいたって気付かない。同じ立海生なら尚更。


気付けばいつも出る改札の反対側の商店街に行き着いていた。


『巻いたかな』
「どうだろう。姓の家を知ってたら先回りされてるかも」


そんな。それだったら怖すぎる。いわゆる、ストーカーってやつだよね。勘違い、思い過ごしならいいんだけど。
背中に走る悪寒に肩をさすった。

幸村くんの手がわたしの肩から降りて手を握った。
お互い何も言わないけれど、とても心強かった。


「姓の家の近くってさ、街灯が少なかったり、人気がなかったりしない?」
『大学の前を通るよ』
「もしもはそこで起こるかもしれないね」


夕暮れの大学は学生はいても講義中やゼミにいて表を歩いていない。それなりに高い塀や生い茂った木に囲まれて学内外の様子は見えない。

改札を通る、繋いだままの手を不安のせいか強く握ってしまった。
それに気付いた幸村くんも強く握り返してくれた。


そういえば、この間はハグしてくれたっけ。
隣で電車を待つ姿を見て、ふと思い出して、顔がぽかぽかしてきた。なんで今思い出すのよ!


「姓?」
『なな、何でしょう?』


目を細めた幸村くんに見つめられ、さらに顔が熱くなる。
どことなく甘くてむず痒い空気がわたしたちを包み、ホームに入ってくる電車の風が抜けるまで見つめ合っていた。
その電車に乗って、動き出した景色に気付く。


『あ、わたしの電車反対』
「うん。寄り道をしようか」
『えっ』


乗り込んだ快速電車。幸村くんに手を掴まれたまま。
どこに連れて行かれるのだろう。ドナドナ。