日に日にぎこちなさが消え、伸び伸びと踊れるようになってきたし、当初とはステップも変更され、より難易度の高いものへと変わっていった。
それもこれも跡部のお陰なのだ。

嫌うほどでもなかったが、傲慢でいけ好かない生徒会長殿と長らく思っていたため、こんなに慈悲深く慈愛に満ちた人だと気付けなかった。


「まだ残れるか?」
『平気。親にミカエルさんが事情話してくれてるから、喜んで応援してくれてる』
「そうか」


跡部は手を叩きメイドさんを呼んだ。そのまま彼女らに連れられ別の部屋に移動した。


『えっ!?何するんですか!』


別の部屋に連れて来られるやいなや、目隠しをされ、着ていた練習着のワンピースも脱がされ、何か新しい服を着せられた。
真っ暗な視界の中、ふわふわの椅子に腰を下ろす。


「名様、景吾様が良いと言うまで目を開けないでくださいね」


メイドさんの指示に大人しく従う。
目隠しを外され、メイクが施される。上品な香りのするお化粧品だな。自分のお財布からじゃ、こんなお化粧品買えないな。

髪の毛も結い上げられ、鏡を見ずとも自分が別人になっているに違いない。


「もういいぞ」


どれくらい目を伏せていたのだろう。跡部の声がかかり瞼を上げれば眩しさにチカチカした。


『跡部の格好王様みたい』
「然るべき姿だ。自分の格好も見てみろ」
『わ、すごい』


鏡が見当たらないので、とりあえず落とした視線。スワロフスキーがきらめく淡い水色のドレスに身を包んでいた。
シルクなのだろうか。摘んで持ち上げてみたり、撫でてみたり。

椅子から立ち上がろうとすれば、跡部に待ったをかけられる。
わたしの足元にしゃがみ込んだ跡部は、ドレスの裾を持ち上げ、わたしの足からパンプスを脱ぎ取った。


「ガラスの靴はないが、代わりにこれを」


ドレスと同じ色のパンプスが足を飾っていた。


跡部の手を取って立ち上がると、先ほどのパンプスよりいくらか高いのか、急激に跡部と視線が近くなった。
だけど、指先は窮屈にならないし、柔らかい皮で随分と履きやすい。
それに跡部のエスコートによって転ぶことはなかった。


「今宵は白銀。踊りたくもなるだろう」


煌々とバルコニーに注がれる月明かり。見上げれば大きく白い月が夜空に浮かんでいた。


「零時の鐘を聞く前に去ってしまうシンデレラ。私と踊っていただけませんか?」
『跡部、なんだか変だよ』
「うるせぇ。月明かりがそうさせるんだよ」
『喜んで、王様』


わたしは跡部の手を取り、部屋の明かりが消されたバルコニーで夜風のワルツを踊る。