「緊張してんのか?アーン」
『当たり前じゃない!』


卒業記念パーティーの当日。

中学生にしたらまだ似合わないドレスに身を包んだ女子や、この日ばかりはと背筋を伸ばした男子が食事を片手に談笑したり、ダンスに誘ったりする中、わたしと跡部はお色直しのために別室に来ている。


ドレスも着替えお互いに万全な身なりをしているが、緊張による脂汗でもうメイクが崩れそうだ。
ああ、この一曲が終わればわたしたちがホールのセンターで踊る番だ。


緊張で震えるわたしに対して跡部はいつも通り気高く涼しい顔をしている。悔しい。
跡部はごく数人、一曲が終わる間も無く踊り、ひと時の夢を見せていた。

その様子を忍足と遠目に見ていたが、その時点から緊張してよく覚えてない。
ジローがわたしに寄りかかって眠っていたことも、それを見て向日が笑っていたのも知らない。


祈るように手を握り、自己暗示をかけるわたしを跡部は鼻で笑った。このやろう。


「恥をかくときは俺様も一緒だ」
『一緒だからいいって話じゃないの!』
「かと言って、一人でダンスは成功しねぇ。その時は失敗になる。演奏も含め、だ。俺様の目を見ろ。成功する。いいな」
『勝手だなぁ』


鼻を鳴らす跡部の持論に横暴さを感じながらも、緊張から来ていた手の震えが止まっていた。
緊張が過ぎると開き直って頭がスッキリしちゃうとも言うけど、なんだか本当に落ち着いてきた。


「行くぞ」


差し伸べられた跡部の手を取り立ち上がる。足も棒のようだったのに、今はどうだ。羽の生えたようだ。


『跡部、なんでわたしを選んだの?』
「前にも聞いたな。……いいだろう。終わった後にな」
『ありがとう』


そのまま跡部のエスコートでホールの扉をくぐる。
しんと静まり返ったホールだからこそ、再び緊張で高鳴り始めた鼓動が耳元で聞こえる。


大丈夫。大丈夫だ。跡部と踊るんだから。
向き合い蒼の瞳を見つめる。必ず最高の時間になる。


わたし達の最初の一歩が地面に着くと深く吸った息を吐くようにオーケストラの演奏が始まった。

人が避けホールの中央はわたし達の独擅場。誰でも共に踊ればいいのに。たったひと組に釘付けだった。


割れんばかりの拍手の中、跡部はわたしと離れ、壇上に立った。彼の言葉は終幕の鐘である。

蒼は今まで見た中で一番幸福な色をしていた。