何しても様になる幸村くん。
今はただ本を読んでいるだけなのに。
描く前は仰向けでポーズをとってたけど、わたしを見たいから横を向いてくれた。
肘掛に体を預けて、流れるようにソファから足を出してくつろいでいる。
伏し目がちに文庫本を読み進める姿がとんでもなく美しい。
そんな姿を見つめ続けることが許され、スケッチブックに納めることができる。
とんでもなく光栄なことだ。
描き進めてるうちに気付いた。
幸村くんが寝ている。疲れてたのかな。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
……もうちょっと近くで描いていいよね。
とりあえず風邪を引かれても困るので、幸村くんの脱いだブレザーとセーターを持ち、彼の体に掛けた。
スケッチブック持ち、ペンケースを床に置いて幸村くんの顔の近くに立膝になる。
石膏像でもこんなに間近で見ることはない。
端整で、まだあどけなさのかけらが残っている寝顔。
わたしはその顔を覗き込む。
長い睫毛に縁取られた目。高い鼻。桃色の薄い唇。傷ひとつない白い肌。
みんなが欲しがるものを持っている。
スケッチブックを走る鉛筆が止まらない。
睫毛を一本残らず描き残してやろうと、覗き込んだとき、頭を押さえつけられた。
唇だけが幸村くんの肌に触れる。
何が起こったのか頭を起こそうにも頭が上がらない。
口に何かぬるりとしたものが入ってきた。
なにこれ、舌?
『ふっ……ぁ、ぅんっ!』
さらに頭を押さえつけられ、より深く舌が進入してくる。
歯列を舐められ、絡め取られた舌を甘噛みされ、上あごを舐められたあたりから思考が止まっている。
息が苦しいけど、この背中を走るゾクゾク感に浸っている。
頭に押さえつけられていた力がなくなると、ずり落ちるようにわたしは床にへたり込んだ。
嘘、腰が抜けてる。
「ごちそうさまです、名さん」
体を起こした幸村くんが口の淵に流れた唾液を指で口に押し込んでいた。
頭が未だに回っていない。
「寝てるからって近付きすぎです」
『いつから起きてたの』
「先輩が俺に服を掛けたあたりから」
『最初からじゃん……』
酸欠だから?彼にキスされたから?
よくわからないけど、心臓がうるさくて仕方ない。
ファーストキスを奪われ怒りでも湧くかと思えば、一切湧いてこない。
泉の中に沈んだ彼を助けるために飛び込んだがそれが最後。
もうすでに彼に溺れてしまっている。
「俺、先輩のこと好きなんですよ。心が付いてこなくても、身体から手に入れて俺しか考えられないようにしてやろうとも思ってます」
普段の幸村くんからは考えられない言葉。
恐怖どころか身体が疼く。
「なんでも言うことを聞いてくれるんですよね?付き合ってください」
『……はい』
「先輩の意思ですか?」
わたしはこくこくと何度も頷く。
自分から引きずり込んでおいて、なんで確認するの。
にやけるのが止まらないって顔をした幸村くんに抱きかかえられる。
「嬉しいなぁ!もっとしていいですか?」
『ダメ!描き終わってからです』
「えー」
描き終わったら、勝手に好きにしますからねと、体を離して、肘掛に倒れこんだ。
わたしも椅子に座ってた元の位置にと思って立ち上がると手首を掴まれた。
「ここでしょ」
指差したのはさっきまで立膝をついてたところ。
『何もしない?』
「さっきみたいに顔を近付けなければガッついたりしません」
『気を付けます』
でも絵に集中し始めるとまた無意識に近付いちゃうんだろうな。
……不用意に幸村くんに近付くのはやめよう。
心臓も絵も止まるわ。
「あっ、そうだ。忘れないうちにボタン止めた方がいいですよ」
視線を落とすとカーディガンまでのブラウスのボタンが開いていた。
こういう時に限って体育があってインナーを着てない日なんだ。
胸元と薄ピンクのブラが見えてる。
『いつの間に』
「キスした時ですよ。気付かないくらいキスに集中してたんですね」
本から視線を外し意地悪く笑う。
わたしは一番上以外を止め直す。
彼の長い腕の届く範囲にいたら何されるかわからないな。