俺らより上の先輩らがいなくなってから気をつかうこと無く部活ができる。
まぁ、俺よりずっと前に負けてレギュラーから落とされたような人に気をつかうことなんてなかったけど。
新学期が始まり、休みらしい休みは初めてだ。
放課後っていうのがネックだけど、羽を伸ばすには十分だ。
家に帰る前にレンタルビデオ屋でDVDを借りるかと思ったけど、たまには読書でもいいだろうと図書室にやってきた。
がらりと開けた図書室。
カウンターには図書委員もおらず、長机に誰もいないことをいいことに、何冊も本を積んで勉強をしてる様子の女子が一人いただけだった。
俺は目的の文芸の書架へ向かう。
机の一列先から熱心に何かをする女子を見た。
左手で本を押さえ、右手に持ったシャープペンで頭を掻いている。
レポートといったところだろうか。
相当悩んでいるのか、シャープペンを口に当てたり、指で回したりしている。
「あれ?借りられとるんかな」
一冊読みかけのまま返却してしまった本があったからそれの続きでもと思ったのだが、その場所には抜き取られた跡があった。
文芸の書架を見ると点々と抜かれている。
恋愛小説、しかもメロドラマの原作本ばかり。
俺が管理してるわけじゃないから正確ではないけど、そこそこ知名度のあるものばかりが抜かれている。
適当にちょっと前に話題になった恋愛小説を手にする。
これだけ無駄に広い図書室で人の存在を感じるなら、変に離れるより近くにいた方が気にならない。
俺は長机を占領する女子の斜め向かいに座った。
今度は夢中にノートに書き込んでいる。
積まれた本の中から俺の読みかけの本が混じっている。
「今これ読んでへんねやったら、読んでてええ?」
『ん、え、あーどうぞ』
彼女は俺の存在すら気付いてないみたいだった。
顔を上げて俺と本のタイトルを確認するとまたノートに目を戻した。
「何しとるんですか?」
真剣に本とノートを交互に睨みつける彼女が気になる。
ふぅ、と一息ついて、ペンを置きしおりを挟んで本を閉じた。
『演劇部の脚本書いてんの』
「レベッカか」
『映画見てから書いてるんだけど、30分に収めるのは無理だね』
そう言って、本からしおりを引き抜いた。
ボツってことか。
「無難なのいったらええやないですか」
『シェイクスピアとか?もう書いてるんだよなぁ』
そういえば、文化祭の時にハムレットをやっていた。
難しくなく、時々笑えるような要素を入れてきて、あっという間の30分だった気がする。
その話をすれば、彼女は微笑んでわたしが書いたのと誇らしそうにしていた。
定期公演も、新歓の寸劇も、ここ2年間の演劇部の脚本は彼女が書いているらしい。
文化祭のか、時間があった時の定期公演でしか見たことなかったけど、どれも面白かった。
しかも、三年生が抜けてから最初の公演は毎年同じで、簡単で、最低3人でできるように作ってあるという。
「演劇部で舞台立ってんの見たことないけど、裏方なん?」
『いや、わたし文芸部なの。今は可愛い後輩たちに何本か残してあげようと残された時間で執筆中』
「てことは、自分三年生なん?」
『そうだよ。二年の忍足くん』
言葉が太い釘のように鋭く刺してきた。
随分馴れ馴れしく話していたことを謝ると、笑って気遣いは要らないと言った。
『何かオススメの作品ない?』
「せやなぁ……。あ、あれや、短歌とか俳句とかを舞台にできひんの?」
『ほお』
彼女は興味を持ったのか少し前のめりになる。
あれだけ短い言葉に、情景や想いがこれでもかと詰め込まれている。
下手な最近の恋愛小説を読むよりもずっと感情豊かだ。
『いいね、それ、最高』
彼女は立ち上がり、慣れたように古文の書架と詩集の書架から短歌や俳句の本を持ってきた。
『忍足くんともっと早くに出会えてたらよかったよ』
「頑張ってください。俺、この辺の本戻して来ますわ」
『ありがとう!出来上がったら読んでほしい』
「適当に本読んで待ってますわ」
ペンを取った彼女は、手には別の意思があるかのように夢中でノートの上で舞い踊っていた。