入学した頃、水泳部はなかった。
どうしても泳ぎたくて、中等部には屋内プールはないけれど、一年かけて仲間を集めて部を設立させた。

同期が4人と先輩が1人。みんなスイミングスクールの友達。

立ち上がった時期が5月の中頃で新入生は入れられなかった。
女子はわたしとその先輩だけだったけど、そんなことはどうでもよかった。来年集めればいいから。

言い出しっぺの法則でわたしが2年ながらも部長となった。


色々とルールが決まっていく。
一人では泳いではいけない。補講優先。掃除をすること。全員、応急処置の心得を持つこと。

一番大きいのはプールの授業がない期間の水道代だった。
全部抜くことはないから、継ぎ足すだけ。

たった三週間ほどの夏休みの間だけ水泳部が持つのだけど、部費や生徒会からの予算から引いても5000円くらい足が出た。
みんなで割っても中学生に1000円は大きかった。

だからこそ、夏休みは全日入れたいくらいなんだけど、顧問も部員も都合がつかない日が出てくる。


その時に目に留まったテニス部員。ダメで元々、彼らに声をかけた。
二年でも三年のテニス部部長に声をかけるのは勇気が必要だった。
だけど、優しい先輩ですぐに頷いてくれた。


「もちろん君も泳ぐんだよね?」
『はい。寧ろ貴重な練習時間をわたしに付き合わせてしまうので』
「いや、構わないよ」


ニカッと笑ってくれたけど、なんだか寒い気がした。


テニス部、水泳部ともに顧問の許可も頂き、レギュラーと一部の部員だけだが、プールでの基礎体力作りの日が出来た。


「姓先輩は女の子一人で大丈夫なんですか?」
『えーと?』
「幸村精市です。一年」
『一年でレギュラーなの?すごいね!』
「部を設立させた姓さんには及びません」


ようやく中学生の風格が出たあたりの幸村くん。
あと二人一年レギュラーがいて、真田くんと柳くんというらしい。


『大丈夫。一人で泳ぐのは危険だからね』
「そうでしょうか。別の危険があると思いますが……」


なんだか言いずらそうにしていたのが気になってしまう。


迎えた当日。プール日和って感じの快晴。
普段なら一人で1レーンでも余るのに、20人ほどがプールにいるとびっくりする。


「あれ?体操服着てるの?」
『あ、今日はよろしくお願いします。フリーまで体操服でみなさんのマネージャーしてます』


テニス部部長はつまらなさそうにプールサイドで体操を始めた。
テニス部のいつもの準備体操でいいと話したので、苦しそうにカウントする声が聞こえてくる。

わたしたちが普段やってる体操はまだ甘いのかもしれないなぁ。
そう思いながら柔軟体操をした。

体操を終えれば、水泳部のトレーニングに切り替わる。

100メートル泳いでは5分間休憩してを5セット。クロールと平泳ぎをそれぞれ。
元々体力があるだろうけど、空気とは違う抵抗が息を上がらせていた。

全員が泳ぎきると15分の休憩。


コンクリートのプールサイドにへたり込む一年生たちに声をかけた。


「無理だぜぃ……」
「鬼ぜよ」
「授業くらいと思ってたら地獄ですね」


丸井くん、仁王くん、柳生くんは根をあげていた。
それに比べて、真田くんと桑原くんはケロリとしている。幸村くんと柳くんはつらいけどまだいけるといった表情。


「ねぇ、そろそろ名ちゃんも泳いでよ」


背後に人の気配。振り返るより前に、体操服の上を剥がされた。


「おっ、やっぱ巨乳じゃん」
「パッド入れてんのかよ。乳首見えてないじゃん」
『何するんですか!』


後ろにいたのは、部長とほかの三年。
わたしは立ち上がると、ズボンを下ろされ、お尻さえ過ぎればポケットのストップウォッチやゴーグルの重さで自然と降りていった。

どよめきが起こる。


「日に焼けてないところで白スク水でいいんじゃねぇの?」
『やめてください!』


肩紐に手をかけられてずりおろされそうになったところに、鈍い音が響く。

プールサイドにわたしの肩紐を掴んだ先輩が倒れる。
彼を殴り飛ばしたのは真田くんだった。

ひどく怒っている様子だった。


「最低ですね、部長」


口を開いたのは幸村くんだった。
他の一年生たちもわたしをかばうように前に立つ。
触れるだけで切れる刃のような気迫がある。


「殴ったな!どうなるかわかってんのか!」
「殴りました。強姦されそうになった姓先輩を守るためです」
『でも、』
「こんな奴らかばう必要ありません」


先輩だろうと淡々とした物言い。
一年生ながらもレギュラーを勝ち取る彼らは何者なんだろう。


『でも、喧嘩はダメです。仮にも仲間なんでしょう?』


睨み合う彼らの間に割って入る。


『わたしはあなた方を許しません。ですが、今回ばかりはわたしの油断もあります。どうかプールサイドでは公私混同しないでください』


わたしは頭を下げると、先輩達は舌打ちをしてプールサイドから出て行った。


『はい!練習に戻ります!』
「先輩は甘い思います」


わたしは切り替えて、明るく振る舞い手を叩く。
真田くんの不服そうな声。


「簡単ですから、油断してようとしてなかろうと」
『心配してくれる?ありがとう』


わたしは真田くんの右手を取った。
先輩を殴り飛ばして、少し赤くなっている気がする。


「そういうところなんですよ」
『痛っ!』


空いてる左手でデコピンされた。


「直らなければ次は右でいきます。その次は左で殴りますから」
『はぁい』


微笑んだ真田くんに顔が熱くなる。
多分惚れてしまった。