「げ、今日抜き打ちかよぃ」
朝練のない、一番立海の正門が賑わう時間に登校すれば風紀委員による服装の抜き打ち検査が開かれていた。
ボタンやネクタイ、ズボンの折り曲げた裾は今何とかなる。
でもやべ〜、ベストの色がビミョーに青で校則に引っかかるかも。
「またお前か!」
ヤッベー!ってあれ、俺じゃない?ラッキー!
何食わぬ顔で真田の横を通過できた。
真田が怒鳴りつけてるのは、染めてない髪をゆるく巻いて、しっかり最近流行りのギャルメイクをした女子。超可愛いけど、こんな子いたっけ?
真田は腕を組んで女子に注意してるけど、指先で髪を弄んで真田のことを上目遣いでチラ見すれば、真田は口をつぐむ。
わかる。そんな可愛い子に上目遣いされたら強く言えなくなるわ。
「おはよ、丸井。こんなところにいたら邪魔になるよ」
「おっ、おぉ!おはよう幸村くん」
真田たちの様子を見ていたら、幸村くんに肩を叩かれて情けない声が出てしまった。
俺の視線の先を知っていたのか、幸村くんは二人を指差して愉快そうに笑った。
「ふふ、あの子ね、真田の彼女」
「いやいや、そんな冗談」
真田にまず彼女とか絶対ないでしょ。たるんどるじゃん。
しかもあんなギャルっぽい子とかありえないだろい。
いやでも、幸村くんがそういう冗談言うかな。本人の前ならまだしも、二人の耳に入らない距離で。
「おーい!真田!名!」
「えっ、ちょ!スルーしてもらったのに!」
幸村くんにワイシャツの襟を引っ掴まれて、二人に歩み寄る。ワックスつけてることに絶対なんか言われんじゃん!
声をかけられた二人は幸村くんを見る。女子の方は掴まれてる俺も見て不思議そうに首を傾げた。
てか、幸村くんが副会長と妹以外に名前で呼ぶ女子って珍しくない?知り合いなの?
「おはよう幸村、丸井。どうかしたか?」
ワックスのことは寝癖って言えばいいや。堂々としてよ……。
真田の隣の女子の顔をチラ見する。
やっぱ可愛い。だけどどっかで見たことあるな。どこだっけ。
「名のこと紹介してあげようと思って。真田の彼女」
「かっ!彼女だと!?」
『姓名です。彼女というか、ね?』
声を裏返し口をパクパクさせる真田と、困ったように笑う姓。二人とも顔を赤くして、幸村くんに助けを求める。
姓名って、あれじゃん。三強と一緒で一年からレギュラーだった女子じゃん。
高校生デビュー!?やるじゃん。
「恋人は言いすぎたね。許婚だもんね」
「え!?」
二度見、三度見までしてしまった。姓は両手で頬を覆って、真田は深く帽子を被った。マジかよ。