高校生になってしばらくして、許婚とはいえ、改めて顔合わせをしましょうという話になった。


わたしの許婚である弦一郎くん。そして精市くんとは幼馴染だ。三人で同じテニススクールに通い、中学も立海でテニス部だった。一応毎日顔を合わせられる仲だ。


わたしが数えで16歳になるということで、お見合いという形で、わたしと弦一郎くんに結婚する意思があるかの確認のためのものだ。

四歳からの付き合いだし、中学も一緒にいればわたしたちの間に特別恋愛というものはなかった。
バレンタインのチョコレートはあげるけれど、友チョコと何ら変わりのないもの。


お見合いという響きに浮かれたわたしと弦一郎くんの2人の母と、弦一郎くんの祖母の3人に着付けや化粧をしてもらう。
この色がいい、この柄がいい。弦一郎の好みはこれよ。それなら帯や飾りはこれがいいわと、楽しそうだ。


歩いて崩れる前に一枚写真を撮られた。
携帯電話のフォルダに収められたそれは自分とは思えないほど綺麗で、浮かれて精市くんにメールを送ってしまった。


慣れない着付けに苦しめられながら、男性陣の待つ部屋へ向かう。
いつも弦一郎の会うのになんだか緊張してしまう。


「おお、名ちゃん別嬪さんになって」
「綺麗だよ、名」


弦一郎くんのお爺様やお父さんはおめかしをしたわたしの姿に破顔していた。うちのお父さんは泣きそうだ。

チラリと弦一郎くんの方を見れば、目を見開き、窮屈そうに背広を着て微動だにせずにいる。
パチンと目が合えば、顔を赤くしてふいと逸らされてしまった。


「許婚といっても、真田も姓も昔よしみなだけだ。二人で決めなさい」


わいわいと娘息子自慢の後、お爺様の言葉で大人たちは席を立った。
まだ席についてからわたしと弦一郎くんは一言も発していない。それなのに二人きりにされるのは困る。


「名」


大人たちの声が聞こえなくなると弦一郎くんはわたしの名前を呼んだ。


「その、とても綺麗だ」
『あ、ありがとう』
「お前のことを昔から見ているが、これほど美しくなるんだな」
『弦一郎くんもとても格好いいよ』


目を合わせることが出来ず、うつむき気味で向かいに座る弦一郎を盗み見た。
帽子を深く被り、仁王像も鋭く一目見るだけで怯んでしまうくらい怖い顔をした弦一郎くんの姿はなく、穏やかに精市くんのように笑っていた。


「俺は名の判断に委ねようと思う。時代遅れだろうし、良いと思う人もいるだろう」


いつもの引き締まった険しい顔をして弦一郎くんはそう言った。

正直な話、本当にそう思う。あの人との恋愛は許されないんだ。感情なんて置き去りで結ばれてしまうんだ。

だけど、幼い頃から弦一郎くんと一緒にいて、この人と結婚するのよと言われてきたためか、あまり他の人を好くことはなかった。
恋というよりは、この人といることが当たり前になっている。

改めて今日、弦一郎くんの晴れ着を見てドキドキした。多分、精市くんにはならないと思う。

それに、この人はわたしに自由の選択肢を出した時に少し悲しそうな顔をした。


『わたしは弦一郎くんと恋がしたいです』
「い、いいのか?」
『うん。まだ結婚には時間はあるよ。弦一郎くんも他の女の子を選べる』
「むっ!俺は名しか見ていない!あ、いや、聞かなかったことにしてくれ」


顔を赤くした弦一郎くんは卓に伏せってしまった。肩を揺すっても顔を上げようとしない。
とりあえず、許婚の話は現状維持ということになった。そして、結婚を前提としたお付き合いをすることになった。


これが高校生になって、ツツジが咲き始めころの出来事。